偏愛の逸品/パーソナルな空間を作り出す“球体チェア”
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パーソナルな空間を作り出す“球体チェア”

新しいアイデアは、リラックスから生まれる。古代ギリシアのアルキメデスが「アルキメデスの原理」を思いついたのは、入っていた湯船から溢れ出る湯を目にしたことだったというエピソードからもわかるように、脳や体がリラックスすると、それまでつながっていなかったことが結びつき、思いもよらぬアイデアとなって表出する。しかし多くの情報や刺激に溢れる現代は、リラックスすることがとても難しい。そこで勧めたいのがフィンランド人デザイナー、エーロ・アールニオ氏による「ボールチェア」だ。

自分のためにデザインした椅子

アールニオ氏は1932年、フィンランドのヘルシンキに生まれた。伝統を尊重しつつもモダンな要素を取り入れ、プラスチックやファイバーグラスといった変幻自在な素材から有機的な形を創造。それをビビットなカラーでまとめ上げるという、60年代のポップカルチャーを体現したかのようなデザインが特徴だ。

今も数々の優れたデザインを生み出し続けている氏の作品は、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ニューヨークのMoMA、ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムなどにコレクションされており、その革新的なデザインは世界的な評価を受けている。
1963年に完成した「ボールチェア」は、アールニオ氏がその前年にフリーランスとなってから最初の作品だ。当時住んでいた家にぴったりの大きな椅子が欲しくなり、自分でデザインをすることにした氏は、椅子が出来上がっていく過程についてこう語っている。

「いくつか考えるうちに、その形はシンプルそのもの、ボールのようになりました。私が椅子に座ったときの頭の動線を妻が壁に記し、椅子の寸法を決定しました。プロトタイプも自分で作り上げ、命名も手間取る事はありませんでした。ボールチェアの誕生です」

周囲の騒音を約70%遮断する独自の構造

真っ白なFRP製の大きな球体をスパッと切ったようなデザインのボールチェアは、内部がホロー構造になっており、それをアルミダイキャスト製の優美なスタンドが支えている。内部の張材はヤコブセンなどにも使われているデンマークのメーカー、クワドラ社の高級なウール生地を使用しており、座り心地は極上。そしてボールチェア最大の特徴である、座る人をすっぽりと包み込む独自の構造は周囲の騒音を約70%も遮断するため、椅子でありながら「個の空間」を生み出せる稀有な存在となっている。
ボールチェアを愛用したのは、フィンランド大統領、モナコ公国のグレース王妃、デザイナーのイヴ・サンローラン、歌手のフランク・シナトラを始めとしたセレブリティやアーティスト、ミュージシャンといったクリエイティブな人たちだ。またその独特な存在感から『マーズ・アタック!』など映画の小道具としても登場している。

サイズはW1100×D980×H1200mm、シート高は430mm、重量は39.6kg、カラーはレッド、ブルー、ブラックの3色があり、フィンランド製で、価格は78万8000円(税込)だ。
「現代技術がいかに個人の生活様式に寄与できるか」を追求しているアールニオ氏の生み出したボールチェアは、忙しい日常を忘れさせてくれる心地良さ、そして未来を拓く素晴らしいアイデアの源泉となる特別な空間となってくれることだろう。

Text by Tamotsu Narita