40男のMemories/ナイアガラの月またも輝く…『NIAGARA MOON』40周年記念盤
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ナイアガラの月またも輝く…『NIAGARA MOON』40周年記念盤

80年代に多感な時代を過ごした諸賢なら、大滝詠一というアーティスト名は青春の風景とともに記憶されているケースも多いだろう。突然の訃報から早くも月日が経ち、なおも氏の不在を惜しむ声が尽きない中、名盤『NIAGARA MOON』の40周年記念アナログ&CDがリリースされた。自身で立ち上げたばかりのナイアガラレーベルからリリースされたのが1975年。今回の記念盤は、リミックスや未発表音源など、蔵出しを含む周辺音源を網羅した決定版となる。

稀有な<勉強家>、大滝詠一の原点のひとつ

傑作『A LONG VACATION』(1981年)は、CMソングとして「君は天然色」「カナリア諸島にて」など収録曲が今なお使用され続ける。そのリリースの6年前、1975年。伝説の4人組=はっぴいえんどのメンバーとしてそのキャリアをスタートした大滝詠一が、バンド解散後に立ち上げたのがナイアガラレーベルだ。ソロ名義では2作目(はっぴいえんど時代に1枚目『大瀧詠一』を発表)となる『NIAGARA MOON』は、ナイアガラ第2弾としてのリリースである。

のちに『A LONG VACATION』『EACH TIME』といった自身の名盤や、松田聖子『風立ちぬ』、森進一『冬のリヴィエラ』、小林旭『熱き心に』といったエヴァーグリーンな作品群へと結実することになる、大滝詠一の壮大なポップスの実験。それは『NIAGARA MOON』から本格的に始まったといえる。このアルバムでは、ニューオリンズ由来のセカンドラインなどリズム/グルーヴの追求と、音の響き最優先のナンセンスな歌詞が幸福な融合を遂げている。

以降、大滝詠一は音頭やレゲエといった土着の音楽から、サンプリング技術も包含する最新音楽までをも<勉強/研究>しては<解釈/吸収>し、<融合/発表>するプロセスをひたすら続けていくことになる。音楽シーンの第一線からほぼ引退していた最晩年でも、氏が過去の日本映画や日米の大衆音楽史、時には落語や野球に至るまでを研究・発表し続けていたことをご存知の方なら同意いただけるはずだ。大滝詠一は自ら評したように稀代の<勉強家>だった。

未発表のお宝音源を大量収録

とはいえ大滝詠一は単なる生真面目な研究者だったわけではまったくない。冗談好きな氏のユーモア感覚がよく表れているのも全編大滝自身の作詞作曲であるこのアルバムの大きな特徴のひとつ。レーベル全体に共通する<遊び心>の象徴ともいえる。なにしろ、最初のLP盤(エレック)とすぐに再発された盤(コロムビア)では、すでに裏ジャケットの写真が異なっており、ナイアガラがソニーに移籍してからも(このアルバムに限った話ではないが)再リリースされるたび、収録音源含め、マニア泣かせの微妙な差異が必ずどこかに存在するのだ。

今回の40周年記念盤はどうかといえば、文字通りの大盤振る舞い。限定アナログは、75年オリジナルマスター使用の1枚と、95年の本人による未発表リミックスの2枚組(しかも当初の構想曲順)。CDはそのリミックス音源収録のディスク1、未発表ライブ音源+デモ用ラフミックス含むディスク2。これまで世に出たアルバム関連音源の集大成でもある(だがおそらくは<必ず差異がある>)。

ウェルメイドな印象の強い80年代以降の作品に比べれば、圧倒的に荒削り。しかし、だからこそ音楽を作り、プレイすることの喜びと楽しさが凝縮された本作。『A LONG VACATION』『EACH TIME』しか聴いたことがないという方にこそ推奨したい。松本隆のもたらす情緒がいっさい介在しない大滝詠一も存在する。絶好の再入門盤となるに違いない。

Text by Nin Onodera