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- 葉巻への誘い──ゆとりある大人の愉悦を -

その手間もまた愉し。スマートな葉巻の吸い方・味わい方

古くから風格ある大人の嗜みとして知られる葉巻。紙巻きタバコに比べ趣味的な要素が強いイメージがあるだけに、自分でも試してみたいものの、どこから始めればよいのか見当がつかず、いまだその世界に触れることができない男性も多いだろう。この記事では、特に難しいと思われがちな葉巻を吸う手順や、スマートに葉巻を味わうためのポイントに関する、プロのアドバイスを紹介しよう。

今回のアドバイザー

羽崎修平

「Panacee(パナセ)」店主

厳選された酒と、管理の行き届いた極上の葉巻が楽しめるバー「Panacee(パナセ)」店主。店名はフランス語で「万能薬」を意味し、店を訪れた人の心を癒やしたいという意味が込められている。旬のフルーツをふんだんに使ったカクテルも人気。

切り口のつくりかたや着火の手順で大きく味わいが変わるのも葉巻の魅力

ライターひとつあれば気軽に楽しめる紙巻きタバコとは違い、葉巻を嗜むためにはある程度の道具を揃えるか、それを備えたお店に行く必要がある。特に欠かせないのが「シガーカッター」と呼ばれる器具。売られている状態の葉巻は吸い口をカットしないと吸えないため、シガーカッターを使い自分で吸い口をつくる必要があるのだ。酒と葉巻が愉しめるバー「Panacee」店主の羽崎修平さんによれば、吸い口の形状で味わいが変わるのが葉巻の大きな特徴とのこと。
「もっともスタンダードなのは、吸い口をまっすぐに切る『フラットカット』でしょう。フラットカットでは『ギロチンカッター』と呼ばれるタイプか、ハサミ型のシガーカッターを用います。吸う人の好みにもよりますが、フラットカットの場合、個人的には先端のラウンドしている形状が残るくらいの位置でカットするようにしていますね。このとき気を付けたいのが葉巻の湿度。湿度は味わいに大きく影響し、この好みは人によって違いますが、ある程度湿度が高い葉巻は綺麗にカットしやすいですね。乾燥気味な葉巻は上手に切らないと、切り口がボロボロになってしまうんです。吸い口が綺麗なほうが、ストレスなく葉巻を楽しむことができます」(羽崎修平さん、以下同)
このほかV字型の吸い口をつくる「キャッツアイ」や、吸い口をくり抜く様に穴をあける「パンチカット」といったカットの方法があるという。

「Vカッター(キャッツアイ)という器具を使い、猫の目のような断面をつくる『キャッツアイ』は、V字に切れ込みを入れるため、吸い口の大きさに対して表面積が大きくなるので口を大きく開けなくとも、たっぷりと煙を楽しむことができます。それとパンチカッターを使い吸い口をくり抜く『パンチカット』、これも葉巻の代表的なカット法となります。私個人的には直線的な葉巻であれば、なるべく口径に近い大きさの吸い口になるようにカットをするほうが、その太さを堪能できると思っています」
葉巻の形状やコンディションによっても選ぶべきカット法は変わるというが、最終的にはやはり吸う人の好みによってカット法を選ぶのが“正解”。これも、自分で試しながら最適解をみつけていくべきもののようだ。カットに慣れないうちは、お店の人にカットしてもらって構わない。

カットと並んで重要なのが、火をつける手順。マッチ、またはライターを使うことになるが、点火の際にも注意すべきポイントがあるという。

「今はターボライターで点火するのがもっとも簡単です。燃焼率がいいので、ガスのニオイも残りません。ただマッチでつけるのが正統派だという人もいますから、これも正解はありません。オイルライターはオイルのにおいがつきやすいのであまり好まれませんね。点火の際は、火をつけて先端だけを綺麗に炭化させるよう斜めに傾けながら火をつけていくのがポイント。葉巻のフット(吸い口の反対側)の角に火を点けるような感じで着火すると、綺麗に炭化させやすくなります。表面の葉も味や香りの大事な部分なので、あまり焦がしてしまうと味わいが損なわれることがあります。なるべく遠火で先端のみをまんべんなく焦がしていくように火をつけてください」
これが比較的一般的なセオリーだというが、羽崎さんによれば、良くないと解りつつも面倒なときは紙巻きタバコのように、吸いながら点火をしてしまう時もあるそうだ。

葉巻の“ご機嫌”を取るのが吸い方の極意。灰の落とし方もできればスマートに

上手に火をつけることができたら、いよいよ口にくわえて煙を味わいたいところ。しかし、ここからが葉巻の難しいところであり、醍醐味でもある。

「口に運ぶタイミングが遅いと火が消えてしまうので、消えないよう適度に口に運び、ご機嫌を取りながら吸っていきます。葉巻はこの“面倒を見る”のが大事で、それを美味しく吸うために時間を費やすものなんです。個人差はありますが、だいたい1分にひと吸いくらいは口に運びたいですね。慣れてくると吸うタイミングがわかるので、葉巻のご機嫌を取るのが容易になります。葉巻の美味しい吸い方は、クールスモーキングという熱くないマイルドな口当たりの煙をいかに楽しむかがテーマとなります。強く吸い過ぎないよう、まんべんなく断面を燃焼させるように火を回し、煙は肺に入れず、ジュースを飲むときに同様、一度口の中で溜めるようなイメージで口腔内に煙を満たし、ゆったりと口から煙を吐きます。葉巻は鼻腔と口腔の粘膜、舌の味覚と嗅覚で楽しむものである、ということをお忘れなく。漂う煙の薫りも一緒に味わってください」
このとき断面が均一に燃えるように吸わないと、偏って燃焼する「片燃え」になってしまう。こうなってしまうとその葉巻本来の口径の意味がなくなってしまい、口径に対し着火面が大きくなるので、煙の温度が上がりやすくなる。均一に燃焼させるように注意しながら楽しむと良いとのこと。

「葉巻を吸いなれている人は、吸い終わるまで、葉巻を手から離す機会が少ないですね。指に挟んだままグラスを持ったり、慣れている雰囲気がカッコよさにつながります。また途中で吸うのをやめて、吸い差しを持って帰るのは個人的にはあまりオススメしません。タバコのシケモクが美味しくないのと同じで、吸い差しの味は極端に落ちます。とはいえそれも好き好きなので何とも言えませんが、その場で吸い切る方が絶対に美味しいですよ」
羽崎さんも指摘するように、吸う際の仕草も愉しみのひとつ。ところで、吸っているうちに生じる灰は、どのように処理すればよいのだろう。

「葉巻の場合は紙巻きタバコのように、始終トントンと灰を落とさないほうがベターです。ある程度灰が溜まって来た時に一度強めに吸って先端の温度を上げ、アシュトレーにトンと置けば、自然と灰が落ちるんです。落とす灰を綺麗に並べ、お点前さながらの美しい灰の列をつくる方もいらっしゃいます」
時間をかけてたっぷりと葉巻を味わったら、そろそろ終わりの時間だ。

「葉巻にリングが付いているものは、せめてリングの周辺くらいまでは吸ってあげて欲しいです。葉巻を日常的に吸っている私達は、美味しければリングを外して1センチくらいになるまで吸いますけどね(笑)。最後はそのまま灰皿へ置いておけば、火は勝手に消えます。灰皿へグシュグシュッと消すと『愛情がないなぁ』とあまり良い印象ではないですね」
ポイントを並べていくと大仰にみえるかもしれないが、要は火をつけて吸えばいいだけのこと。習うより慣れろということわざもあるように、まずは自分で葉巻を吸ってみることがいちばんのレッスンになるだろう。次回は、葉巻を愉しむ上で欠かせない酒や食事とのマリアージュに関するアドバイスを紹介する。

Text by Tamotsu Narita
Photo by Kazushige Mori
Edit by Kei Ishii(Seidansha)