アカデミー賞(Academy Awards)
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アカデミーが示したハリウッド映画の新潮流

2月22日(LA現地時間)に開催された第87回アカデミー賞授賞式。作品賞にノミネートされた8作品を始めとして、今年は粒揃いで、当日までなにが本当に受賞するのか予想がつかない混戦となった。こんなにスリリングな年は、何年ぶりだっただろうか。

作品賞を受賞したのは、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督による『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。菊池凛子が助演女優賞ノミネートされた『バベル』(2006年)以来、8年ぶりにアカデミー賞の舞台に立ったメキシコ出身の鬼才監督の渾身の一作が、作品賞だけでなく監督賞、脚本賞、撮影賞の主要部門4冠を制した。 academy1_1 アカデミーで4冠を獲得した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のスタッフ(右から2番目がイニャリトゥ監督)と作品賞でプレゼンターを務めたショーン・ペン。 (C)Apega / WENN.com / ゼータ イメージ 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は、すでに全米製作者組合賞、全米監督組合賞をともに受賞していたこともあり(全米製作者組合も全米監督組合もアカデミー会員と重なるメンバーが多い)、対抗のリチャード・リンクレイター監督の『6才のボクが、大人になるまで。』を抑え、受賞にいたったことはさほどサプライズではなかった(もちろん、12年間かけて同じキャスト、主要スタッフで撮った『6才のボクが、大人になるまで。』に監督賞、あるいは編集賞などの大きな賞をとらせて欲しかったという思いを多くの映画ファンは抱いていたと思うが…) academy1_2 アカデミーを制した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の撮影風景 (C)Fox Searchlight Pictures – New Regency – Le Grisbi – M Prods / DR / T.C.D / VISUAL Press Agency / ゼータ イメージ とはいえ、今年の受賞結果を見ると、保守的といわれるハリウッドが殻を破り、新時代に入った様子があちらこちらに垣間みられる。 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のイニャリトゥ監督は、米国で映画を撮り続けているとはいえ、自分でも「英語が下手」と授賞式のスピーチで自嘲的気味にコメントするように、米国への移民の多いメキシコ出身。 また、通常ならキャリアのある大物俳優に行く主演男優賞は、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で大復活をとげ、前哨戦で多くの賞を制覇してきたマイケル・キートンではなく、英国出身の33歳の若手実力派エディ・レッドメインに渡った。 academy1_3 主演男優賞を獲得したエディ・レッドメイン (C)AdMedia / ゼータ イメージ 外国人や若手に光を当てる“開かれたアカデミー賞”のこうした傾向は、ノミネーションのラインナップにもすでに現れていて、主演男優賞の5人のうち、ブラッドリー・クーパーを除く4人は初ノミネートだった。 そして、作品賞のノミネートにも新しい顔が揃っていた。 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のモルテン・ティルドゥムは、ノルウェー出身監督でこの作品が初の英語映画になる。 ルーサー・キング牧師を題材にした政治映画『セルマ』のエイバ・デュバーネイ監督は、これが長編第3作目となる42歳のアフリカ系アメリカ人女性。 去年のサンダンス映画祭で注目され、アカデミー賞にたどり着き、J・K・シモンズが助演男優賞まで受賞した『セッション』のデイミアン・チャゼルは、1985年生まれで撮影時には28歳だった新人監督である。 また、『博士の彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュは、『マン・オン・ワイヤー』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞しているものの、フィクション映画では初めてのオスカー・ノミニーとなった英国人監督だ。 人種差別や偏見、年齢の垣根も取り払った“新しいアカデミー賞”。それは今年、豊作だったといわれる受賞スピーチでも象徴的だった。 『6才のボクが、大人になるまで。』で助演女優賞を受賞したパトリシア・アークエットは、「この国のすべての納税者と国民全員を生んだすべての女性、私はみんなの平等の権利のために闘ってきました。米国の女性たちは、賃金と権利の平等を受けるべき」と女性の権利を訴えた。 academy1_4 助演女優賞のスピーチで女性の権利について語ったパトリシア・アークエット (C)FayesVision / WENN.com / ゼータ イメージ 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』で脚色賞を受賞した脚本家のグレアム・ムーアは、16歳のときに自殺未遂をした経験を告白。「自分はどこかおかしい、他人と違っている、どこにも居場所がないと感じている人に伝えたい。変わったままでいい、人と違っていていい」という彼のスピーチは、スタンディングオベーションを受け、今年のアカデミー賞で最も感動した瞬間として記憶された。 academy1_5 スピーチで会場を感動に包んだグレアム・ムーア (C)FayesVision / WENN.com / ゼータ イメージ 社会問題を提起する大きなステージともなったアカデミー賞。エンターテイメント界最大のお祭りは、やはり奥が深い。

Text by Atsuko Tatsuta

Top Image:アカデミー賞を受賞した役者たち。右から、エディ・レッドメイン(主演男優賞)、ジュリアン・ムーア(主演女優賞)、パトリシア・アークエット(助演女優賞)、J・K・シモンズ(助演女優賞) (C)Z15 / ACE Pictures / ゼータ イメージ