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第4回 | 投資対象としての現代アート入門

自分で愉しむことで価値も高まる。アート作品の保管と鑑賞術

現在、世界的に投資対象としての関心が高まっているという「アート」。そのなかでも、もっとも成長しているというのが「現代アート」の領域だ。個人でも比較的購入しやすい価格帯の作品が多く、また今後価値が高まる可能性が高いという。この記事では、所有した現代アート作品の保管や正しい愉しみ方に関するアドバイスを紹介しよう。

アート所有は、海外ではエグゼクティブの条件。積極的に飾っていこう

世界の富裕層の間では、定番の投資対象になっているという「アート」。しかし、アートコレクションのコンサルタントとして活躍する三井一弘氏(ミツイ・ファイン・アーツ代表)によれば、彼らがアートを所有する根本的な理由は、投資目的ではないという。

「海外では、アートに関心を持つことがエグゼクティブの条件になっているんです。西洋美術の歴史を振り返ることで他国の文化や現代を理解するほか、アートを中心にしたチャリティーイベントを主催するなど接し方も様々です。また、どのようなアートに関心を持ち、どのような作品を所有しているかを知ることで、所有者の人となりを理解することができる、というわけですね」

たとえば、知人の自宅に招かれた際、その方の書斎の本棚に並ぶ背表紙を見れば、その人となりが理解できる。それと同じことだと三井氏は話す。もちろん、作品の価値が理解できる人なら、所有者のセンスと資産状況までわかることになる。いわばアートコレクションとはセンスと教養を代弁するパートナーであり、逆に言えば、見られているということなのだ。

そのため所有するアート作品は、秘蔵するのではなく、堂々とメインダイニングに飾り来客に披露するのが常識。また、そのようにしてアートと“共に暮らす”ことによって、所有する喜びを得たり、アートに対する審美眼を磨いていくのだとも。

「投資対象としてのアート作品というと、倉庫に預けるなど厳重な保管をする必要があると思われがちですが、実際のところ、そこまで気を遣わなければいけないものでもありません。自身の価値を高めるためにも、所有した作品は積極的に飾ってあげてください」

とはいえ、日本の住環境ならではの注意事項もあるという。

「絵画にとって、いちばんの大敵は劣化を促進する直射日光(紫外線)なのですが、日本の住宅の場合、もっとも絵画を飾るにふさわしいメインダイニングが南向きに設けられている点に注意したいところ。ヨーロッパでは、絵画を飾ることを前提に、メインダイニングは直射日光を避けた北向きに設けられるんです。南向きの部屋に絵画を飾る場合には、なるべく直射日光が当たらない場所を選ぶか、遮光カーテンなどを使い日光を遮るようにしてください」

日本の住環境で注意すべきは湿気。定期的な「かけ替え」がオススメ

ほこりや汚れによる劣化も気になるところだろう。

「ヤニが付着するのでタバコを吸う部屋に飾るのは当然論外ですが、通常のほこり程度なら、それほど気にする必要はありません。油絵や彫刻のように立体的でほこりが付きやすい作品でも、エアースプレーで月に1回くらいほこりを払ってあげれば良いでしょう」

ほこりや汚れの付着を避けるため、アクリル板やガラス板で絵画作品を保護する場合もあるが、湿度が高い日本の住環境では、湿気を含んだ空気を閉じ込めてしまい、カビの原因になるおそれもあるので注意が必要だ。水彩や版画、写真など、媒体に紙を使った作品は劣化しやすいので、額装してアクリル板を入れたほうが良いが、油彩画は余計な保護をしないほうが良いと三井氏は言う。

Biblioteca Teresiana Mantova I(Candida Höfer,2010)

そして、もっとも重要なのが、定期的に作品の「かけ替え」を行うことだという。

「私の場合は、だいたい3カ月に1度のペースで作品のかけ替えをしています。飾っている作品が紫外線などで劣化するのを防ぐことができるだけでなく、しまっておいた作品の“換気”にもなるので、複数の作品を所有している人なら、かけ替えはなるべく行ったほうが良いと思います。また、作品を掛け替えることで部屋の見た目も気持ちもフレッシュになりますしね。ちなみに、飾らずに保管するのであれば、湿気のない暗い場所を選んでください。一軒家の場合は、1階よりも2階のほうが湿気を防ぐことができます。また、作品を梱包している場合はカビ予防のため、定期的に箱や包装紙を開いて空気を通してください」

【見出し3】
現代アートの領域で今後注目すべきは、女性アーティスト

【本文3】
シリーズ記事の最終回ということで、参考情報として三井氏が個人的に投資対象としても注目できると考えている、現代アート作家について教えてもらった。三井氏がまず挙げたのは、ドイツの写真家カンディダ・ヘーファーの名だ。

「これからはもっと女性が活躍する時代がやってくると思います。なかでも彼女はアンドレアス・グルスキーと同じ、デュッセルドルフ美術アカデミーで教鞭を取っていたベルント・ベッヒャーとヒラ・ベッヒャー夫妻から学んだ『ベッヒャー派』のひとりです。ベッヒャー派にはグルスキーとヘーファー、それにトーマス・シュトゥルート、トーマス・ルフという4人がいますが、このうち女性はヘーファーだけなんです。他のベッヒャー派は億単位で取引きされているなか、彼女の作品は高いものでも、まだ1500万円程度。作品のクオリティーは遜色なく投資対象としては、お買い得といえるのではないでしょうか」

また日本の作家では、陶器で新聞や包装紙などを模した“ゴミ”を作り出し、行き過ぎた消費を行う現代社会の危うさを表現したアートで評価の高い三島喜美代が、今後の“注目株”だという。

WORK2012@東横INN品川港南口天王洲アイル(Photo by Kazuhiro Mitsui)

「日本で始まった『具体美術』は、ロサンゼルスの有力ギャラリーが力を入れたところから始まり、今人気なんです。三島はその具体美術を始めた吉原治良とも親しく、ポスト具体とも位置づけられる女性で、私は日本の初期のポップアーティストだと考えているんですよ。三島先生は『ポップではない』といいますが、ウォーホルもリキテンスタインもオルデンバーグも三島の作品をコレクションしていましたからね。彼らも何か似たシンパシーを感じていたのかもしれません。この前もシカゴ美術館に60年代の大きなペインティングが収蔵されましたし、バーゼル香港では4000人が出品したなかから記憶に残る20人に選ばれました。アートの世界ってまだまだ男性社会なんですが、私は三島やヘーファーといった女性アーティストがこれから注目されるのでは? と考えています」

「三島喜美代展」展示風景(Photo by Kazuhiro Mitsui @CoSTUME NATIONAL LAB(青山))

不動産や株とは違い、所有する喜びを得たり、自身の審美眼や教養を深めたりすることもできるのは、アートという投資対象ならではの魅力。さらには我が子に対する情操教育の一貫にもつながるとか。アートに対する素養が世界ではエグゼクティブの条件になっているのも頷ける話だ。

「アートとは自分自身を映し出す鏡なんです。たとえば学生時代に訪れた京都と、40~50代になってから訪れる京都では見方も楽しみ方も感じ方もまったく違ってますよね。それは経験の積み重ねによるものですが、アートもまったく同じこと、言うなればアート投資とは人間力を高めるための自身への投資なのです。なにより、アートに対する関心を高めることで、人生の愉しみも新たな人脈も増えるはず。世界に通用する人物となるためにも、ぜひ自身の投資への第一歩を踏み出してください」

とは三井氏の弁。これまで、まったく無関心だったという人も、これを機会にアートへ興味を持ってみてはいかがだろう。

Text by Tamotsu Narita
Edit by Kei Ishii(Seidansha)
Photo by Kazushige Mori
Main photo: Biblioteca Teresiana Mantova I(Candida Höfer,2010)

取材協力:ユカ・ツルノ・ギャラリー http://yukatsuruno.com

三井一弘(みつい・かずひろ)
ミツイ・ファイン・アーツ代表
1970年、神奈川県横浜市生まれ。NBS Chapman University卒。日本へ帰国後、現代美術アーティストとして活躍。99年、世界的権威を持つウィルデンスタイン画廊の東京店に入店、アートディーラーへと転身する。2016年に独立、画廊を持たない独立系のプライベート・アート・ディーラーとして個人コレクションのコンサルタントとして活躍している。またセミナーや講演、執筆活動などを通じ、難解と思われがちな現代アートの鑑賞法やアート市場についてわかりやすく解説している。近著に『アート鑑賞BOOK この1冊で《見る、知る、深まる》』(三井一弘/三笠書房)。2018年には現代アートについて論じる書籍を刊行予定。

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