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第2回 | 投資対象としての現代アート入門

総資産の8%前後程度が目安。現代アート投資の相場は?

美術作品としては史上最高となる、約509億円で落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチの『サルバトール・ムンディ(救世主)』や、アブダビに開館した『ルーブル・アブダビ』など、2017年の動きだけでも理解できる、アートに対する投資の世界的な盛り上がり。とはいえ、数十億円クラスの作品を投資対象としてみるのは、個人にとって現実的ではないだろう。そこで注目したいのが、まだ個人でも手の届く範囲に収まる作品が多い「現代アート」の領域だ。この記事ではアート投資の基礎知識と、アート投資の“相場”について解説する。

市場に流通する作品数と人気度によって決まるアート作品の“価値”

アートへの投資を考えるうえで、まず理解しておきたいのが、投資対象として作品の“価値”がどのように決まるかということだ。アートコレクションのコンサルタントとして活躍する三井一弘氏(ミツイ・ファイン・アーツ代表)は、2013年に化粧品メーカーのエスティ・ローダーが、総額10億ドルといわれるピカソやブラックなどを含む世界でも最大級のキュビズム作品のコレクションなど78点を、ニューヨークのメトロポリタン美術館に寄付したことを例に説明してくれた。

「基本的には“人気と希少さ”が作品の価値を決めると考えてよいでしょう。エスティ・ローダーのように、個人や団体が所蔵する作品を美術館に寄贈するということは、即ち寄贈された作品が売買のできるマーケットから消えてしまうことを意味しています。つまり美術館に収蔵された作品は、もはや買うことができなくなるわけですね。そうなると、コレクターはマーケットに残された作品に注目するようになります。実際エスティ・ローダーのケースでは、寄贈によりピカソ作品などの高騰を招きました」

また、作家の生涯作品数も“価値”に大きく関係するという。

「中国のコレクター劉益謙氏が、2015年にモディリアーニの『横たわる裸婦』を1億7040万ドル(当時のレートで約210億円)で落札しました。ここまでの価格になったのは、モディリアーニが生前に200点ほどしか作品を残していないことが大きな理由と言えます。人気のモネでも全部で2000点ちょっとしかありません。これを世界中のコレクターが取り合うわけですが、こうしたアーティストの作品は、既にほとんどが美術館に収蔵されていますよね。なかでも傑作となると、巨匠といえども生涯で描いた作品の2~3割程度しかありません。市場価格がどんどん高くなっていくのは、需要はあるのに供給がほとんど絶たれているからなんです」

“歴史に残る”可能性を持つ、これからの作家が多い点が現代アート投資の魅力

三井氏が解説してくれた、アート作品の“価値”のしくみを理解すれば、現代アートの領域にある作品が、個人の投資対象として注目すべきものであることが、自然とわかるはずだ。

「過去の偉大なアーティストの作品が、現在マーケットでは枯渇状態であるのに対し、世界の富裕層、とくにアジアでは新たな富裕層が次々と生まれています。その需要を埋めるべく現代アートに注目が集まっているのだと思います。なかにはゲルハルト・リヒターのように現役の作家で、すでに数十億円という価格で作品が売買されているアーティストもいますが、リヒターの作品も最初は数十万円から始まっています。そういった意味では、これから価値が高まっていくであろう若手アーティストの支援という意味も含め、彼らに投資することがもっとも魅力的と言えるでしょう。

過去のアートの歴史の流れを見ると、残っている作家は数えるほどです。美術の教科書に載っているのは500年間でだいたい200~300人くらいでしょう。しかし、それは長い歴史のなかで淘汰された結果の人数に過ぎません。これは、現代アートの作家についても言えること。現在、無数に近いアーティストが活躍していますが、そのなかから誰が歴史に残るのかを知る人はいません。ここに、投資のチャンスと面白さがあるわけです」

最低でも100万円以上の作品が、アート投資の基準

では現在、現代アート作品はどれくらいの価格で取引されているのだろう? アート市場全体の相場観と、初心者が知っておくべき購入額の目安を三井氏に聞いた。

「世界のアートマーケットでは1億ドル(約111億円)を超える作品が、わかっているだけで90点程度あります。これがトップクラスの価格帯ですが、個人の投資対象として見るのは、ちょっと現実的ではないですよね。

価値が落ちない“ディフェンシブな資産”となる作品の基準として考えられている価格ラインは1000万ドル(約11億円)。とはいえ、こうした作品の多くは最初から1000万ドルの価値が付いているわけではありません。そうなる可能性のある作品の投資のボリュームゾーンは、30万ドル(約3300万円)~100万ドル(約1億1000万円)といったところ。こうした作品に投資をし、“ディフェンシブな資産”となるような値上がりを期待するのが基本となる考え方だと思います。

また、なぜアート作品がディフェンシブなのかというと、アート作品は株のように小口買いができない商品だからです。アート作品はそれぞれの価格帯に応じて、その価格帯の作品が購入できる資産を持った層から成り立つ、特殊なマーケットになっています。従って作品の価格帯が高額になればなるほど、購入できる層が限られるため、値崩れを起こしにくい構図ができるのです」

Nine Views of Winter #5(Jim Dine,1985)

投資とはいえ、アートに3000万円を投じるのは、アートに興味がない人にとって、かなりな冒険となるに違いない。三井氏も、無理をした投資は推奨していない。

「世界の富裕層の間では一般的な考え方なのですが、ポートフォーリオから購入可能な金額をイメージするのが、これからアートへの投資を始める人には特にオススメです。具体的には、総資産の4%~15%が、アート投資額の目安と言えるでしょう。とはいえ、10万や20万程度の作品は、趣味としては面白いでしょうが、投資の対象としては少し難しいと思います。100万円クラスの作品でなければ、投資の対象にはならないと考えるべきですね。世界的な大画商の家訓に、”買う時は大胆に、売る時は慎重に”という言葉があります。買う時は清水の舞台から飛び降りる覚悟と度胸が必要で、売る時はタイミングを見計らうことが大事だということです」

このように「人を選ぶ」投資ともいえるアート作品だが、選ばれた人にとっては魅力的な投資対象となるだけでなく、三井氏によればアートを所有することは、今やグローバルなエグゼクティブの間では必須教養となっているとも。世界へ目を向け、次なるステップアップを目指すなら、今のうちに興味を持っておくべきだろう。次回は、投資対象となるアート作品の選び方や購入法の実際を紹介する。

Text by Tamotsu Narita
Edit by Kei Ishii(Seidansha)
Photo by Kazushige Mori
Main photo: Summer on the Cruise(Jim Dine,2005)

取材協力:ユカ・ツルノ・ギャラリー http://yukatsuruno.com

三井一弘(みつい・かずひろ)
ミツイ・ファイン・アーツ代表
1970年、神奈川県横浜市生まれ。NBS Chapman University卒。日本へ帰国後、現代美術アーティストとして活躍。99年、世界的権威を持つウィルデンスタイン画廊の東京店に入店、アートディーラーへと転身する。2016年に独立、画廊を持たない独立系のプライベート・アート・ディーラーとして個人コレクションのコンサルタントとして活躍している。またセミナーや講演、執筆活動などを通じ、難解と思われがちな現代アートの鑑賞法やアート市場についてわかりやすく解説している。近著に『アート鑑賞BOOK この1冊で《見る、知る、深まる》』(三井一弘/三笠書房)。2018年には現代アートについて論じる書籍を刊行予定。

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