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第1回 | 投資対象としての現代アート入門

約7兆円の市場規模。世界の富裕層が「アート」に投資する理由は?

世界の富裕層の間で定番の投資対象となっている、絵画や彫刻などの「アート」作品。なかでも注目度が年々高まっているのが「現代アート」の領域だ。とはいえ多くの日本人にとって「投資対象としてのアート」は理解しにくいものだろう。そこで比較的個人向けであるだけでなく、投資対象としても有望という「現代アート」投資の基本を専門家に聞いた。この記事では、「現代アート」投資を理解するための前提となる「海外でアートが投資対象となっている背景」について解説する。

ヨーロッパでは“ディフェンシブ”な資産と考えられている美術品

2017年11月、ニューヨークで開催された「クリスティーズ」のオークションで、“男性版モナリザ”とも評されるレオナルド・ダ・ヴィンチの『サルバトール・ムンディ(救世主)』が、日本円にして約509億円という、美術作品のオークションとしては史上最高の金額で落札された。このことからもわかるように現在、アート投資への関心が非常に高まっているのだ。

「世界のアートマーケットの市場規模は、現在約7兆円と言われています。ちなみにCD、DVD販売やダウンロード、ストリーミングを含めた音楽メディアの世界市場は約1.6兆円(2015年度)。この数字の差を見れば、世界におけるアート市場の規模がいかに大きいか、おわかりいただけるのではないでしょうか」

と語るのは、アートコレクションのコンサルタントとして活躍する三井一弘氏(ミツイ・ファイン・アーツ代表)。とはいえ、約7兆円という市場規模を知っても、アートを投資に結びつけて考えることに抵抗がある日本人は、いまだに多いのではないだろうか? 三井氏は、その原因がヨーロッパと日本が経験した“歴史”の違いにあると指摘する。

「ヨーロッパでは『アート=資産』という考え方が古くから浸透しています。これは、戦争や侵略によって自分が住んでいる国自体が消滅するという経験を繰り返した結果と考えることができます。国が亡くなってしまうということは、通貨や土地の価値も同時に失われてしまうということ。そこで自分の資産を守るため、どの国でも一定の価値を保つことができる動産となる宝石や絵画のような美術品を所持するという“知恵”が身についたわけです。国を追われた場合でも、宝石や美術品なら、土地とは違いカバンに詰めて自分で持ち運べますからね」

つまり、ヨーロッパ人にとってアートは、所蔵することで価格の上昇を待つような投機の対象ではなく、ディフェンシブな資産として意識されているというわけだ。

「対して、資産イコール土地という意識が日本で強いのは、他民族からの侵略をほとんど経験してないことも一因と考えることができるでしょう。また『道楽』という言葉に象徴されるように、絵画や骨董といった美術品が、古くから富裕層や特権階級の“趣味”として定着していたことから、『趣味をお金儲けの道具にするのは下品』というような認識が根強く残っているのも、アートを投資の対象としてみることに抵抗を感じる理由といえるかもしれません」

オイルマネーの使い途にも。中東やアジアでも高まるアートへの投資熱

アートを投資対象とみる動きは、欧米だけでなく他の地域にも広がっている。最近の目立った動きとしては、中東のアブダビに開館したルーブル美術館の“支店”『ルーブル・アブダビ』(2017年11月オープン)が象徴的だろう。4億ユーロ(約530億円)という“ルーブル”の名称使用料のほか、作品の貸出から展示会の企画やノウハウの提供を含めたパッケージとして、30年契約で総額10億ユーロ(約1320億円)をフランス側に支払ったというから驚きだ。ちなみに前述の509億円のダ・ヴィンチの作品を落札したのもサウジアラビアのバデル王子で、UAEの王族と親密な関係であることから、このルーブル・アブダビに展示されることが報道されている。当然、目玉となるはずだ。

(C)Sipa Press/amanaimages

「石油がいつか枯渇することを見越して、現在中東では観光資源のひとつとして盛んに美術館を作っているところです。そのためオイルマネーを使い、どんどん作品を購入しているんですね。西洋美術が扱うテーマはキリスト教文化が基本なのですが、中東の富裕層はイスラム圏であることとはあまり関係なく、いつでもお金に換えられる投資対象というクールな目でアートを見ているようです。中東に限らず、中国をはじめとするアジアでも同様に、アートへの投資が盛り上がっています。スイスのプライベートバンク『UBS』の方から聞いた話ですが、過去5年間の新興の富裕層の7割はアジアの人たちなんだそうです」

このような世界の動きを知れば、あらためて「アート」が現在、注目の投資対象となっていることがわかるだろう。次回は、アート作品の中でも個人の投資対象として特に「現代アート」に注目すべき理由や、アート投資の基礎知識について紹介する。

Text by Tamotsu Narita
Edit by Kei Ishii(Seidansha)
Photo by Kazushige Mori
Main photo: Teatro Mercandante Napoli I(Candida Höfer,2009)

取材協力:ユカ・ツルノ・ギャラリー http://yukatsuruno.com

三井一弘(みつい・かずひろ)
ミツイ・ファイン・アーツ代表
1970年、神奈川県横浜市生まれ。NBS Chapman University卒。日本へ帰国後、現代美術アーティストとして活躍。99年、世界的権威を持つウィルデンスタイン画廊の東京店に入店、アートディーラーへと転身する。2016年に独立、画廊を持たない独立系のプライベート・アート・ディーラーとして個人コレクションのコンサルタントとして活躍している。またセミナーや講演、執筆活動などを通じ、難解と思われがちな現代アートの鑑賞法やアート市場についてわかりやすく解説している。近著に『アート鑑賞BOOK この1冊で《見る、知る、深まる》』(三井一弘/三笠書房)。2018年には現代アートについて論じる書籍を刊行予定。
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