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今も胸に響くリーダーの要諦『松下幸之助に学ぶ モチベーション・マネジメントの真髄』

本書の要点

●要点1
それぞれモチベーションが異なる人たちを束ねるには、理念やビジョンをきちんと言語化して示すことが重要である。

●要点2
人を惹きつけ、新たな行動を引き出すには3つのステップがある。その最初のステップはアンフリーズ(解凍)だ。これは固定観念を破ったり、新たな気付きを与えたりすることを指す。

●要点3
新たな気付きを与えることができたら、次はチェンジ(変化)のステップだ。新たな目標や意義を与え、それに向けて一歩踏み出すための安心感を提供するのである。

●要点4
第3のステップが「リフリーズ(再凍結)」だ。ここでは正しい行動や望ましい振る舞い、新しい取り組みを定着させることが求められる。

新たな気づきを与える

時間軸で考える

nevarpp/iStock/Thinkstock
人を惹きつけ、新たな行動を引き出すには3つのステップがある。その第1段階が「アンフリーズ(解凍)」だ。これは固定観念を破ったり、新たな気づきを与えたりすることを意味している。

アンフリーズを成功させるうえで効果的なのが、「時間のマジック」と「空間のマジック」だ。時間と空間を切り替えることで、当人の頭の中を支配している「世界」に変化を与えるのである。

具体的に述べていこう。「時間のマジック」とは、当人が囚われている、時間に対する見方を切り替える手法だ。たとえば目先のことで切羽詰まっている時には、時間軸を伸ばして長期的な視点を与えてあげる。逆に将来のことや長期のことばかりに気をとられて目の前のことが疎かになっている場合は、目先のことや「今」に集中させる。長期的な視点と短期的な視点の自在な切り替えこそが、当人が無意識のうちに囚われている固定観念を打破することにつながり、新たな気付きを導くのである。

どのような時間軸に切り替えればいいのかは状況によって異なるが、松下幸之助のエピソードや講話の中には、効果的に「時間のマジック」を活用しているシーンが随所に見られる。

部下の時間軸を伸ばす

昭和11年、松下電器(現・パナソニック)の分社である松下乾電池株式会社では、新入社員が35人程度集められ、幸之助を囲む懇談会がもたれた。そこで1人の新人社員が立ち上がり、「自分はてっきり松下無線に入社できると思っていたが、案に相違して乾電池に回された、ひどいやり方だ」と訴えた。

これに対して幸之助は「きみ、わしにだまされたとおもって10年間辛抱してみい。10年辛抱して今と同じ感じやったら、わしのところにもう一度来て、頭をポカッと殴り、おれの青春10年間を棒に振ってしまったと言ってやめたらいいではないか。わしは、たぶん殴られんやろうという自信をもっておるんや」と返答した。20年ほどのち、その新入社員は乾電池工場の工場長になった。

このエピソードはまさに、「若い部下の見ている時間軸を伸ばしてやる」という視点から生まれている。時間を伸ばしてやることで、目の前にある苦難を簡単に超えられるように受け止めさせた。それが部下のやる気や覚悟を引き出し、モチベーションを高めることにつながったのである。

対比して視界を広げる

egal/iStock/Thinkstock
一方の「空間のマジック」とは、空間的な視点の切り替えを指している。

人は行き詰まると、どうしても無意識のうちに特定の視界や視点に囚われてしまいがちだ。そこで幸之助は部下が固定観念に陥らないよう、しばしば何かと対比することで、より広い視野を部下に与えていた。

ある事業部の経営がなかなかうまくいかず、新任の部長が立て直しを図ることになったときのことだ。その部長は「いろいろ実態を調べましたが、これは必ずよくなります。だから半年間は黙ってみていてください。必ずよくします」と幸之助に挨拶した。これに対し幸之助は笑顔で対応した後、「きみ、私は、1年でも2年でも待つけどね、世間が待ってくれるかどうか、それは私は知らんで」と答えた。

このエピソードでは、「私は待つけど、問題は世間だよ」という言葉をかけることで、新任の事業部長に対し“世間”という視点を与えたのである。対比的な表現をすることで視界を変更させ、さらには「企業の発展は社会が決める」という信念を伝えている。企業や事業の本質的な存在意義をスパッと見抜いた、珠玉の言葉だといえる。

【必読ポイント!】めざすべき方向を示す

ロールモデルの重要性

「アンフリーズ(解凍)」ステップで新たな気付きを与えることができたら、次は「チェンジ(変化)」のステップに進む。

部下の意識や行動を変化させるためには、「目標のマジック」と「安心のマジック」がとくに効果的だ。目標のマジックは、アンフリーズされた状態の当人に新たな目標や意義を、一方の「安心のマジック」は、その目標に向かって一歩を踏み出すための安心感を与える技法である。

「目標のマジック」は大きく分けて2つある。1つ目は、ロールモデル(手本)を示して、具体的な「あるべき姿」を明らかにすることだ。「アンフリーズ」のステップで新たな時間に対する考え方や視界を獲得した当人に、目の前の業務の上位目的を示して、行為の先にある本来の目標や意義に気づかせる。そして具体的な目標や意義を示すことで、望ましい行動を引き出すのである。

これを示す幸之助のエピソードとしては、北海道からわざわざ手紙を送ってきたメガネ屋の話が挙げられる。テレビで見た幸之助の顔とメガネが似合っていないことに気づいた店主は幸之助に手紙を送り、幸之助が札幌へ講演に出掛けた折には、わざわざたずねてメガネを調整した。その後もきめ細かく気遣いをしてくれたこのメガネ屋の姿勢に幸之助は感嘆し、社員に「ぜひ、こういう姿勢で仕事に取り組んでほしい」と呼びかけた。めざすべき方向をロールモデルで具体的に示したのである。

禁止事項を示す

目標のマジック」の2つ目は、望ましい行動を引き出すために禁止事項を明示することだ。「○○してはならない」「○○を禁止する」といったアプローチは、想像以上に効果的である。超えてはならない部分が具体的に示されるからだ。

幸之助のエピソードには実際、「○○をしてはならない」というものが多い。たとえば「光秀になったらあかん」というエピソードは、信頼していた上司が転勤したことに抗議するために、同志と謀って辞職願を出した社員を諭したものである。「明智光秀のように相手の欠点にこだわって反抗するのではなく、豊臣秀吉のように相手のよいところを見て対処しなさい」とメッセージを送ることで、「忠誠をもって上司に仕えよ」と伝えたのだ。

背中を押してやる

Gajus/iStock/Thinkstock
「目標のマジック」で新たな目標や意義、禁止事項を示すことができたとしても、最終的には当人の背中を押してやらなければならない。人は基本的には変化を好まず、むしろ恐れるものだ。ある目標を達成せよと言われても、具体的に新たな一歩を踏み出すには勇気が求められる。

「安心のマジック」とは、その目標や意義に向かって歩み出すための安心感を提供したり、安全網を張ってやったりすることを意味する。「目標のマジック」が当人を前から引っ張ることだとすると、「安心のマジック」とは後ろから背中を押してやることだといえる。

事業で大きな損失を出した幹部が厳しい処分を覚悟して幸之助のところに出向いたところ、その説明を聞いた幸之助は「1回目は経験だからな。たいへん高い経験をしたな。しかし、2度繰り返したら、これは失敗というんだぞ。2度と犯すなよ」と伝えただけだった。このエピソードには、しっかり相手の姿勢を見ながら対処する幸之助の姿勢があらわれている。

正しい行動を定着させるためのカギ

取り組みを継続させる

人を惹きつけて新たな行動を引き出す3つのステップのうち、最終段階にあたるのが「リフリーズ(再凍結)」だ。これを実現するためには、「習慣のマジック」が必要である。具体的には新しい志を忘れないで継続できるよう、動作をルーティン化させたり、何かのものを身につけたり、周囲の力を借りて互いに指摘し合ったりするといった工夫である。

人に気づきを与え、目標や意義を明示したとしても、最終的には「習慣のマジック」で新たな行動を「リフリーズ」させられるかどうかが肝要だ。

リフリーズすべき一例として、ポジティブスタンスの習慣化がある。幸之助は入社1日目の社員が、会社から家に帰ってきたとき、会社の様子をどのように報告するかが大事だと説いている。親や親戚、友人たちに会社のことを聞かれたとき、基本的には「大丈夫、いい会社だよ」と答えるべきというのが幸之助の考えだ。これは「何ごともポジティブに捉えなさい。そしてそれを習慣にしなさい」ということであり、ポジティブな解釈をすれば、めぐりめぐっていい成果が得られるということを示唆している。

PDCAサイクルを回す

幸之助は商売の心得として「商売というものは、発意、実行、反省が大事なことであり、私自身も、こういう基本姿勢をさらに重要視していかねばと、あらためて痛感している次第」と述べている。これは現代風に言えば「PDCAサイクルを回せ」ということにほかならない。

ここで言わんとしているのは、「PDCAサイクルを回すことでそこから学び、そしてまた次の歩みを続けなさい」ということだ。そしてそれを習慣化させることが、なによりも重要だということである。

言葉がもつ力を活用する

Nattakorn Maneerat/iStock/Thinkstock
幸之助が大事にしている考えに「素直」というものがある。

「お互いがそれぞれに素直な心の意義、内容というものを十分に理解し、そして日々の生活、活動をつねに素直な心で営んでいくよう心がけていったならば、物事を素直な心で見、考えるという姿もしだいに培われてくるのだとおもいます」と幸之助は述べた。

この思いを実践する場として「体験発表」がある。お互いの体験を人に発表することは、記憶の再整理になる。また発表を聞いた人からフィードバックを受け取り、さらに他の人の発表を聞くことで、自分が知らなかった情報や新しい気付きを得られたりする。

幸之助はこうした体験発表の集まりに、「素直会」「素直講」「素直研究会」といった名称をつけようとしていた。言葉のもつ威力を直感していた様子が、あらためて伺えるエピソードといえよう。

一読のすすめ

著者も触れているように、かつて世界にその力を誇った日本の電機メーカーが外資系企業に買収される変化の激しい時代にあって、「なぜいま松下幸之助なのか」と疑問をもつ読者がいてもおかしくないだろう。しかしそうした疑問は、本書を読めばすぐに氷解するはずだ。幸之助の言葉は、たとえ時代が変わっても十分通用する普遍性を秘めているからである。

人が働くということは、強い意思を持って動くということにほかならない。リーダーに問われているのは、いかに気持ちよく部下に動いてもらうかだ。幸之助はその要諦を自らの経験で熟知していたが故に、誰よりも言葉を大切にしたのだろう。働く人のモチベーションが多様化している今だからこそ、それを束ねるための工夫は必要不可欠だ。そしてそうした工夫や努力は、けっして「時代遅れ」にはならないのである。

率いている部下を、そしてなによりも自分自身を変えたい人に、本書を強くお薦めしたい。

(以上、敬称略)
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