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実は3つのパターンに分類できる『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?』その理由

本書の要点

●要点1
若者は「自律的なキャリア」を描くよう社会から要請されており、これが転職意欲の後押しとなっている。

●要点2
「意識高い系」の転職者は、理想のキャリアのために必要なプロセスを想定通りに進められないリスクを抱えている。また、「ここではないどこかへ系」の転職者には、スキルや経験が蓄積されず、劣悪な労働環境を許容するというリスクがある。

●要点3
自律的なキャリア形成の背後に企業や社会の思惑が隠蔽されている。「自己責任化」を若年層へ過度に求めることから脱却すべきだと著者は提唱する。

若者の転職は問題なのか?

増加する大卒若年層の転職

Tomwang112/iStock/Thinkstock
「社会人の最初の会社はスキルを身につける場だっていうのは、就職活動をする前から思っていた」「武器を身につけて自分でキャリアを描けるようになろうと思った」。こうした若年層の答えからは、転職を視野に入れ、会社に縛られないキャリアプランを描くことが、彼らの間で普通の光景となっていることがわかる。

現在、若者の転職者は増加傾向にある。厚生労働省の調査によると、25~29歳で「初めて勤務した会社で現在勤務していない」と回答した人が、1997年には34%だったのに対し、2013年には45%になっているという。

若年転職者が増加している理由として、よく挙げられるのが非正規雇用者の増加だ。非正規雇用者は一般的に不安定で離職や転職が多くなる。しかし、これは理由の一部にすぎない。リクルートワークス研究所の調査では、2000年以降、大卒で現在正社員として働く労働者の中でも、転職経験者、転職意向をもつ人が徐々に増加していることが明らかになった。しかも、2度、3度と転職をくり返す若者が増えている。はたして、今の若者はどのような意識のもとにキャリアを形成しているのだろうか。

自律的キャリアと転職意欲

これまでの経済学の研究から、比較的厳しい労働環境にいた人は、転職によって年収や就労への満足度が下がる傾向にあることが判明している。短いスパンで転職をくり返すと、再就職が難しくなり、若者のキャリアは不安定化する。これは社会的不安や社会的損失の引き金になりかねない。

ただし、大学生の意識調査などからわかるのは、若者がこれまで以上に転職をポジティブに捉えているという点だ。キーワードとなるのが、「自律的なキャリア」である。自律的なキャリアは、求職者の自己実現のための自律、労働環境の変化に対する適応のための自律という2つの意味合いをもつ。そして、こうしたキャリア観の結果として、同じ組織に所属し続けないキャリアが生まれている。

将来の予測が難しい現在、企業が与える長期的なキャリアパスに身をゆだねるよりも、労働者自身がその場の主体的な判断と行動の積み重ねで学習し、成長していくほうが適している。こうしたキャリア観が若年層の転職意欲を後押ししている。また企業側も、企業経営のパフォーマンスを評価するスパンの短期化により、ますます即戦力を求めるようになっている。企業が長期的な人材育成を担いづらくなっていることも、若者の転職を促す一因だといえよう。

このように、社会全体が若者に対し、その都度必要な場所で必要なスキルを獲得して活躍し、経済活動に寄与することを求め始めている。

若者の転職者3つのパターン

転職を経験した若者は、その後どのようにキャリアを歩んでいくのか。著者は当事者のキャリアを分析するために、大学卒業後に入社した企業から転職を果たした若者15名にインタビューを行った。分析手法として選んだのは、調査対象者の経験を、時間軸を横軸にした図に落とし込み、人間の変容を社会との関係で捉えるTEMという手法である。

その結果、若者の転職パターンは次の3つに分類できた。1つ目は、自分にとっての働く意義を認識し、仕事を通じて希望を叶えるために転職をする「意識高い系」である。2つ目は、働くことの意義がキャリアの意思決定のたびに移り変わっていく「ここではないどこかへ系」だ。両者に共通するのは、2社目への転職後にさらなる転職を視野に入れているという点である。

そして3つ目は、初職よりも良い就労先と偶然出会って転職し、転職先での長期就労を意図しているという、「伝統的キャリア系」である。このパターンは自律的キャリアを歩もうとする若者の分析の対象外となる。よって著者の研究では、「意識高い系」「ここではないどこかへ系」の転職者を扱う。

自律的キャリアを実践する若年層の実情

夢を追う「意識高い系」

demaerre/iStock/Thinkstock
仕事を通して自己実現をめざす意識や高い主体性・積極性と、転職意欲の高さとの間には相関関係があることがわかっている。この姿勢は「意識高い系」の特徴とも重なる。

「意識高い系」に分類された転職者も、自律的キャリア化した時期によって3つのパターンに分かれる。それは「(1)在学時意識高い系」「(2)初職入社後意識高い系」「(3)転職後意識高い系」である。

まず、「(1)在学時意識高い系」は、大学在学時から自分の希望や資質をもとに、キャリアを主体的に描こうとしてきた転職者を指す。特徴的なのは、1社目の企業に入社した理由を自身の言葉で語れること、労働環境や給与ではなく仕事の内容を重視していたことである。彼らは自分にとってより魅力的な転職先が見つかってから、転職を決断していた。

次に「(2)初職入社後意識高い系」は、初職との出会いによって芽生えた希望を叶えるために転職し、その後はさらなる転職を視野に入れた自律的キャリアを描いている。企業との偶然の出会いによって働くことの意義を再検討し、その結果、キャリア観までもが変容したという特徴をもつ。

つづいて「(3)転職後意識高い系」は、初職への不満から転職活動を始め、その中で働くことの意義を再検討している。例えば、初職の経営方針への疑問から転職を決意したが、転職活動で、「仕事を通じてスキルを向上させたい」という意欲に気づき、コンサルティング会社に転職する、といった事例が挙げられる。

漂流する「ここではないどこかへ系」

「ここではないどこかへ系」の転職者は、何らかの確固たる希望を実現するためではなく、その時々の不満を、その都度の判断で回避する、あるいは今よりやりたいことができるところへ転職している。すなわち、環境適応としての転職である。

「ここではないどこかへ系」のスタイルには、転職が一般的化してきた風潮に柔軟に対応しているという捉え方に立てば、ポジティブな意味合いを見出せる。

彼らのキャリア形成で特徴的なのは、転職意欲が芽生えても、さまざまな理由から転職を踏みとどまる姿が見られたことである。それは、不満が解消されなくても、入社時とは異なる形で仕事に対する意義づけをすることで、自分の気持ちに折り合いをつけていたと見ることができる。

「ここではないどこかへ系」は、職場でその都度感じた不満を解消するための身近な手段として、転職を捉えている。その不満とは例えば、労働時間の長さや人事評価基準への違和感、女性の活躍しやすい環境がないことなどである。彼らが重要視するポイントは、キャリアの意思決定のたびに変化している。「意識高い系」の転職者が自分のキャリアに対して真摯だとしたら、「ここではないどこかへ系」の転職者は自分の感情に対して真摯だといえる。

【必読ポイント!】 社会の思惑と自己責任の罠

若者の転職者が抱えるリスクとは?

Wavebreakmedia Ltd/Wavebreak Media/Thinkstock
これまで見てきた「意識高い系」「ここではないどこかへ系」の転職者は、現時点では自律的にキャリアを歩んでいるように見える。しかし、少し先の未来を考えると、キャリアの不安定化を引き起こしたり、リスクの蓄積につながったりする。

まず、「意識高い系」の転職者にとってのリスクは、理想のキャリアのために必要なプロセスを想定通りに進められないことである。希望につながる就労機会や、それを獲得するために必要なスキルをどう身につけるのか。これらを客観的に認識する必要がある。

企業側の採用基準に沿うスキルや専門的知識が欠けている。もしくは他の求職者のレベルに達しない。こうした状態ならば、いくら意欲が高くとも、当然働く機会は得られない。さらには、働く意義にこだわりすぎて、キャリアを練り直すためのブランクをとった結果、再就職が難しくなってしまう、ということもあり得る。

一方、「ここではないどこかへ系」の転職者には、スキルや経験が蓄積されないリスクがある。不満が生じるたびにそれを解消しようと転職し続ける。そのような人材より、1つの軸がある人材のほうが、経験値を上げる機会が豊富なのはまちがいない。また、「ここではないどこかへ系」の中には、転職をくり返す中で仕事への諦めが芽生えるケースもある。「仕事なんてそんなもの」と、不満への感度が鈍化することで、劣悪な労働環境までも無意識に許容してしまう。こうしたリスクも生じかねない。

何より、転職をくり返しながら生きる場合、スキルと経験を蓄積し、自分の市場価値を高めていかなければ、収入を高めることは不可能に近い。

煽られた「自律的キャリア意識」

若者の転職者が下してきた決断の背後には、企業や社会の思惑の影響がある。そもそも、自主性や積極性というスキルは、企業や社会から要請されたものだ。若者の転職者は、就活時に接したメディアや会社説明会の情報、先輩や友人といったロールモデルなどの影響を受けて、自律的キャリア観を育ててきた。また、転職が身近な選択肢となっていることも、自律的キャリア化を後押ししているといえる。

このように、若者が個々の価値観のもとに行っていると思われる自律的なキャリア形成も、社会構造に大いに影響を受けている。

社会によって隠蔽される、極端な「自己責任化」

Stewart Sutton/iStock/Thinkstock
若年層が蓄積しているリスクを掘り下げると、「問題の個人化」「自己責任化」という問題に行きつく。自分らしさにこだわり、自己実現を図ろうとするあまり、その結果のリスクをも本人が背負うことになるというわけだ。

本来、労働市場や福祉政策、教育制度などによって制約を受ける層とそうでない層が存在する。そのため、個人が選べる選択肢は平等とはいえない。しかし、「個人が下した選択の責任は自分でとるべき」という思想が広がることで、制約のもとに下した選択の責任すらも、すべて個人が負わされている。不利な状況は自分の努力不足。こうした規範が責任を隠蔽しているのだ。また企業側も、「自ら自分を動機付けて、企業からの期待に応えて努力すべき」という規範を、従業員に内面化してもらったほうが都合がよい。

現在の日本社会では、若い世代の有利・不利が再生産され続け、その社会的な分断が見えづらくなっている。そんな中、著者は、問題を個人化する文脈から抜け出すことの重要性を強調する。若年層のキャリア形成におけるリスクに対処するには、若年層の「やりたいこと」の実現可能性や先のことも視野に入れ、適切な形で理想を調整するような進路指導を、社会が提供していく必要がある。その担い手の選択肢として、著者は人材サービス会社などでキャリア面談を行うキャリアアドバイザーを挙げる。キャリア面談の可能性については本書に譲りたい。

一読のすすめ

「意識高い系」「ここではないどこかへ系」の転職者のリアルな声や、キャリア観の変遷、若者のキャリア形成を支援する方法。これらについては、本書を参照いただきたい。興味深いのは、ソーシャルインパクトボンドのような、社会の分断を乗り越えるための方策についても考察されている点だ。
ゆとり世代と、彼らを取り囲む社会環境の現在地と未来。これらをマクロとミクロの視点からあぶり出していこうとする著者の気概に、要約者は心揺さぶられた。職場でゆとり世代と関わる方すべてにぜひ本書をお薦めしたい。
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