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第40回 | 男の隠れ家 powered by éditeur

【男の隠れ家】地元で味わう自然の恵み ジビエの宿

山の幸を売りにしている宿では、昔から猪鍋を出していたが、最近は猪に加え、鹿や熊などの料理を出す宿も増えている。有害獣駆除といった背景や野性の味に対する認識が変わり宿のメイン料理としての地位を得たジビエを楽しんでみよう。

伊那谷の山奥に佇む鹿ジビエ料理人の宿
鹿ジビエと山師料理 ざんざ亭
[長野県伊那市]

ジビエ料理人が探求を重ねた
旨味たっぷりの逸品を堪能

桜の名所として知られる城下町・高遠の街中を抜け、山の谷間に続く国道152号線を南下。やがて右手車窓に水音を轟かせるダムと美和湖の水面が見えはじめると目指す長谷地区(旧・長谷村)へと入ってくる。

かつてこの国道に並行する旧街道は秋葉街道と呼ばれ、火防神を祀る遠州秋葉神社への信仰の道として賑わった時代があった。また、道はちょうど巨大断層・中央構造線に沿っており、その線上にある分杭峠は、近年“ゼロ磁場”なるパワースポットとして密かに注目を集めている。

南アルプスの登山口にもなっている山里・長谷地区。国道からさらに三峰川の支流を溯った杉島という小さな集落に「ざんざ亭」はある。前山が邪魔して山容は望めないが、南アルプスの名峰・仙丈ヶ岳の山麓にあたる場所。のどかさを絵に描いたような趣ある古民家が、森に抱かれ静かに佇んでいた。煙突から白く立ち上る煙もホッと心を和ませる。

長谷地区にある杉島の集落

「伊那谷の旧長谷村は自然が豊かで野生動物の宝庫。そんな環境の中でジビエ料理を提供する宿をやりたかったんです」。手拭いを頭にきりりと巻き、日に焼けた笑顔で出迎えてくれた宿の主人でジビエ料理人の長谷部晃さん。常連の間では“ハセヤン”と呼ばれて親しまれている(以下ハセヤン)。囲炉裏端でお茶をいただきながら宿の開業経緯を聞けば、やはり自然との付き合いは長い。

「大学では生物を学んでいましたが、その後、登山をきっかけに北アルプスの槍ヶ岳山荘で料理を学び、山岳救助隊や森林組合、猟師や山に関わる様々なことを経験しながら、料理の世界へ。野生鳥獣を使った料理、特に鹿ジビエに興味を持ったのは、一般的に“臭い、硬い、ぱさぱさしている”と思われがちの鹿肉を何とか美味しく食べられないか……と、可能性を追求したかったからです」

(画像左上)高遠から長谷循環バスが運行。ざんざ亭のバス停で下車。(画像左下)ざんざ亭の看板に誘われて敷地内へ。(画像右)諏訪大社の「鹿食免・鹿食箸」。この神符を拝受した者は生きるために鹿肉を食べることが許される。
「ざんざ亭」の名は、古くから長谷地区に伝わるお座敷歌の「ざんざ節」が由来。もともと村で改築した宿施設を基本的にそのまま使用している。築150年の農家の建物は、玄関に土間があり昔懐かしい雰囲気をたたえている。
囲炉裏の炭火で焼いた夏鹿。芯温60℃前後のスチームでゆっくり火を入れ、さらに炭火で表面を香ばしくじっくり焼く。ピンク色の美しさ、肉の柔らかさ、旨味が渾然一体となった逸品。夏鹿は特別な肉の美味しさがある。
夜の帳が下りはじめた風情あふれる「ざんざ亭」の一コマ。客室に灯りが点り、お客は思い思いに静かな時を過ごす。部屋にはテレビなどはないので、本を読んだり惰眠をむさぼったり。木々を揺らす風の音も心地いい。

宿をオープンしたのは6年前。もともと村で宿泊用に改築した築150年の「ざんざ亭」という農家があり、偶然空いていたそれを居抜きで借りることができたという。「僕が長谷部でここが長谷村。ここでやらきゃ!と運命を感じましたね(笑)」。

長谷地区には現在は約10人の猟師がおり、有害駆除、狩猟期を含めて年間100頭ほどの鹿や猪などが捕獲されている。県内では他にも鴨や雉などの野鳥類、熊などが狩猟期に獲られ、農林水産省の「衛生管理ガイドライン」にそって厳しくチェックされた肉が流通している。

「ジビエ料理は地域活性化にひと役買っていますが、やはり味が良くなくてはダメ。“ジビエってこんなに旨かったんだ”という驚きで食べてもらいたいから、日々独自の研究を重ねています」

宿で提供する料理はもちろん、イベントやテレビ出演など様々な活動を通してジビエの魅力を発信。「伊那を日本一の鹿の町にしたいという思いもありますね」と、ハセヤンは目を輝かせる。

(画像右)囲炉裏端で味わうメインの夏鹿の炭火焼きとベルギービール。(画像上中央)鹿肉ソーセージ、インゲン、ハヤトウリ、ラディッシュ、玄米パン(この日のメニューに使用したパンは、全て駒ヶ根のパン屋「土ころ」のパン)の天ぷらなどを盛り合わせた一品。(画像上左)鹿肉とレーズン&くるみパンのグラタン。(画像下左)鹿肉とひたし豆のテリーヌ、柿とエゴマ入りパンのサラダ。(画像下中央)パンの器に盛った夏鹿のクリームシチュー。安曇野の清水牧場のバッカスというチーズを使用。

夜、囲炉裏端に炭火が熾され、待ちに待った夕食が始まった。この日は常連客のベルギービールを飲むジビエ料理の会がメインだったため、料理はイレギュラーではあったが、ハセヤンは酒の種類に合わせて創作ジビエ料理も臨機応変にこなす。ジビエと共に地元野菜もふんだんに使い、盛り付けの美しさと器のセンスも抜群。客は期待と驚きをもって味を堪能する。この日のメインは囲炉裏の炭火で焼いた夏鹿とウリ坊(猪の子)の骨付き肉。夏鹿は新芽をたっぷり食べた元気な雄鹿だという。

目の前でハセヤンが肉の塊を焼き、それを眺めつつビールのグラスを傾ける。それがまた楽しい。程よく焼けたところで切り分けると、肉汁と共に美しいピンク色の肉が花開くように現れた。固唾を呑んで見つめていた一同、思わず「おおっ!」。それに特製の和風ソースを付けて口に運ぶのだが、少し脂のある赤身の肉はやわらかく旨味たっぷり! もちろん臭みは無い。ウリ坊も同様に焼き、こちらは山椒塩でいただいた。通常コースでは、鹿ハムや鹿パテなども定番として登場するが、その時によって内容は変わるという。

「ジビエを美味しくするには下準備の段階と火の入れ方が大事。火はとにかくゆっくり入れることが大事です。そう、焚き火で焼いたようなジビエを目指しています」

工夫を凝らした感動の演出と味わい。ざんざ亭で味わうジビエ料理は、そんな表現がよく似合う。

(画像右)囲炉裏に熾した炭火でじっくりゆっくり鹿肉を焼くハセヤン。「夏鹿は新緑の葉をたくさん食べるので肉に少し草の香りがするんです」。(画像左上)焼き上がりの頃合いを見計らい、肉を切り分ける。(画像左下)この日囲炉裏を囲んだのは、ランビックという伝統のベルギービールを楽しむために集まった仲間。
(画像右)客室は2階に和室8畳×2部屋、6畳×1部屋。1階には大部屋もある。基本的に少人数規模なのでゆっくり過ごせる。貸切も可。チェックイン時に布団が敷いてあるので、すぐに寝てしまいそうだが……。(画像左)1階の囲炉裏端と居間。築150年の古民家の造りは、重厚で温かみ満点。食事はこの囲炉裏端で楽しむ。
ヒノキの壁に囲まれた風呂は、温泉ではないが柔らかな長谷の水で湧かした湯は優しい手触り。ポカポカと体が温まると評判だ。時間を区切って使う家族風呂式。宿に到着したらまずひとっ風呂。

●アクセス

ざんざてい

長野県伊那市長谷杉島1127番地
☎0265-98-3053
宿泊料/通常コース1万円、鹿尽くしコース1万6000円(1泊2食1名分)
アクセス/(電車)JR中央本線「伊那市駅」より長谷循環バスで1時間30分。(車)中央自動車道「伊那IC」より国道361・152号線で45分。
※12月末〜翌年3月末まで冬季休業

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男の隠れ家 2018年1月号 ジビエ、いただきます!/地元で味わう自然の恵み ジビエの宿
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