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- 美しく輝く世界のディーバたち -

安室奈美恵──孤高のディーバがステージを去る理由

エディトゥール世代の男たちにとっては、もしかすると安室奈美恵引退の衝撃は若い女性より大きいかもしれない。安室が渋谷の街中に多くの「アムラー」を生み出し、TKプロデュースによってミリオンヒットを連発していたとき、同じ時間に同じ場所で彼女の歌を聴いていたのは、今40代の大人となった彼らとその世代だからである。

1年後のデビュー記念日「9月16日」に引退することを突然発表した安室奈美恵

安室奈美恵のベストアルバム『Finally』が発売早々に約64万枚を売り上げ、アルバムセールスの首位に立っている(11月8日現在)。CDショップからのオーダーは100万枚を超えており、この分ならミリオン達成は確実だろう。

すでに渋谷センター街では大規模なプロモーションが行われており、3枚組全52曲のなかから選りすぐられた楽曲が絶えず街角に鳴り響いている。

渋谷を行き交う人々もごく自然に曲を口ずさみ、かつてのアムラー世代、そして今の若者たちにも、安室奈美恵という存在がしっかり届いているようだ。

安室が「ファンの皆様へ」というメッセージを突如発表し、1年後の2018年9月16日をもって芸能界を引退するのを発表したのは9月20日のこと。この「9月16日」は、ちょうど25年前、彼女がSUPER MONKEY'S(スーパーモンキーズ)としてファーストシングル『恋のキュート・ビート/ミスターU.S.A.』を発売したデビュー記念日にあたる。

安室は、ソロシンガーとなってからもこのアニバーサリーデーを大切にしており、当日は毎年ライブを行うのが恒例だった。このデビュー記念日が、来年からは引退記念日となってしまうのである。

日本の音楽シーンに彗星のごとく降臨したようなイメージを持つ安室だが、振り返ると、じつは順風満帆な道筋をたどってきたわけではない。

メディアに出始めたころは「沖縄出身の空手少女」というキャラクターを演じ、歌手デビューしてからも、アイドル歌謡路線、さらにはユーロビートのカバーソングなど、まさしく試行錯誤を繰り返していたのだ。
(C) WENN/amanaimages

ミリオンヒット、「アムラー」の登場、SAMとの結婚・出産、そして痛ましい事件

「安室神話」が本格的に始まったのは、エイベックスに移籍し、小室哲哉プロデュースによる楽曲をリリースし始めた1995年あたりのことだろう。

沖縄アクターズスクール仕込みの本格的なヴォーカルとダンスに加え、彼女が身に纏うファッションも注目を集める。渋谷の街には、日焼けサロンで焼いた肌、細眉、ブラウンのロングヘア、そしてミニスカートに厚底ブーツというL.A.スタイルの女の子が溢れた。

当時の流行語ともなった「アムラー」の登場である。40代の男性には「当時付き合っていたあの子もアムラーだったな…」と懐かしく思い出す人もいるのではないか。

96年には、史上最年少で日本レコード大賞を受賞。これは安室自身の成功にとどまらず、のちに日本のエンターテイメント業界を席巻する「沖縄インベイション」の嘴矢ともなった。

以降、シングル、アルバムともにミリオンヒットを連発するのだが、なかでも97年2月にリリースした『CAN YOU CELEBRATE?』は250万枚の大ヒットを記録する。

そして、この曲に導かれるかのように、同年10月には同じ小室哲哉プロデュースのダンス&ボーカルユニット「TRF」のSAMと電撃入籍。同時に妊娠も発表し、大晦日のNHK紅白歌合戦で紅組トリを務めたのを最後に産休に入り、無事に男児を出産する。

驚くべきなのは、彼女が復帰の舞台に選んだのも翌年の紅白だったこと。つまり、紅白で活動停止して紅白で活動再開するという離れ業を演じたのだ。この年の紅白は、安室の出演時に最高視聴率64.9%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録した。

しかし、さらなる活躍が期待された99年の年明け、安室に大きな不幸が襲いかかる。復帰後の初シングル『RESPECT the POWER OF LOVE』の発売日、実母が義理の叔父に殺害されるという痛ましい事件が起きたのである。

この日本芸能史上でも特異な事件によって安室は引退も考えたというが、ファンやスタッフの支えもあり、彼女は再びステージに立つ決意をする。

ライブでは以前と変わらないパフォーマンスを見せた安室だが、このときから笑顔の裏に「憂い」と「強さ」を感じさせるようになったのも事実だろう。

ミレニアムの幕開けに地元沖縄と九州でサミットが開催されると、安室はそのイメージソングとなった『NEVER END』を各国首脳の前で熱唱。国民的アーティストとしての存在感をますます増していく。
(C) Sipa Press/amanaimages

1年後に迫った日本芸能史上に残る消失劇、姿を消すことで神格化される安室奈美恵

01年からはTKプロデュースを離れ、今日にいたる本格的なR&Bシンガーへとスタイルを変え始めた。同時にテレビの歌番組などの出演が激減。徐々にその活動のメインにライブを据えるようになっていった。

安室が素晴らしいのは、メディアへの露出を減らしてもその勢いが衰えず、逆に人気とカリスマ性を高めていったことだ。ライブは常にソールドアウト。ステージ上ではMCも行わず、歌とダンスの完成度をストイックに追求する姿は、プロ意識の高さとともにいつか燃え尽きてしまいそうな孤高感を漂わせた。

今回の引退発表は、突然だったこともあり衝撃的に受け止められたが、一部のファンからは「やっぱり…」との声も聞かれた。もしかすると、彼女自身はもっと早いタイミングでの引退を考えていたのかもしれない。

四半世紀に及ぶアーティスト人生のなかで彼女が成し遂げてきたことを考えれば、「まだできるのに…」「もったいない」といった見方は無意味だ。

そのプロ意識の高さから、引退後の安室はメディアにいっさい顔を出さなくなる可能性が高い。そして、姿が見えなくなればなるほど、ファンは彼女を思い出し、「安室奈美恵」というアーティストをさらに神格化していくはずだ。

日本芸能史上に残るであろう「消失」劇は、約1年後に迫っている。

Text by Kiyoshiro Somari

Photo by (C) ZUMA Press/amanaimages(main)