レストラン カンテサンス,ミシュランガイド東京,三つ星
- オトナだからこそ味わいたい!極上の逸品 -

日本フレンチを牽引するシェフの哲学

2007年の『ミシュランガイド東京』創刊から、昨年度末に発表された『ミシュランガイド東京2015』まで8年連続三つ星を獲得するレストラン『カンテサンス』。前回は、白金台から御殿山への移転に伴い、オーナーシェフとなった岸田周三シェフの思いが新しい空間にどう表現されているのかを伺いながら、今なお多くの美食家たちを惹きつけてやまない理由を探った。今回は、岸田シェフが描く「キュイジーヌ・コンテンポレーヌ(現代的な料理)」に迫る。

修業先のパリの三つ星レストラン『アストランス』の流れを汲み、新しいムーヴメントを日本のフレンチ界にもたらした『カンテサンス』。では、キュイジーヌ・コンテンポレーヌと称される岸田シェフの“コンテンポレーヌ”とは、いまどこに位置づけられ、どこへ向かっているのだろうか。 岸田シェフ「僕の料理は、自分なりのアイデアを取り入れたフレンチです。昔から引き継いだ料理をそのまま提供するわけではありませんので、確かにその点では“現代的”なのかもしれません」 だが、その“現代的”に対するアプローチは、こちらの想定とはまったくアプローチが異なっていた。 レストラン カンテサンス,ミシュランガイド東京,三つ星 「日本のエビは種類が多くて面白い」と、強火で焼いた香ばしいクルマエビの上に、クルマエビの味噌で和えた生のボタンエビ。テクスチャーとアロマの両方から、エビを味わい尽くす。 岸田シェフ「新しいものは次々と生まれますが、それらは時代とともに本当に素晴らしいものだけを残して淘汰されていきます。本質的においしいものというのは、検証や改善を加える時間も含めて、それなりに歴史的な時間というものがなくてはいけません」 新しい技法があるとするなら、それをより効果的に使う方法はないのか。後世に残されるものと淘汰されるものとの違いは何なのか。残されたものに、さらなる改善点はないのか。岸田シェフのアイデアは、そこからスタートする。つまり、岸田シェフの新しい発信とは「ゼロからイチ」の創造ではなく、「すでにある歴史に上乗せする」創造であり、追求するのは“本質的なおいしさ”であって、“新しさ”や間違っても“トレンド”などではない。岸田シェフの本質を探り当てた結果が“現代的”であるにすぎず、その起点は、むしろ“古典”や“過去”にある。 レストラン カンテサンス,ミシュランガイド東京,三つ星 店内唯一の装飾品といってもよいミラー。映し出される岸田シェフの料理は、フレンチの未来であり、過去でもある 岸田シェフ「昔からあるのに、自分はあまり好きではない料理があれば、なぜ好きではないのか、どうしたら好きになるのかと考える。その改善がアイデアになり、結果的に新しい料理になるのでしょう」 たとえば、ギモーヴ。いま、デザートとして店でも出されているというが、岸田シェフは当初、ギモーヴの食感や卵白の臭みがどうにも好きになれなかったという。そこで食感を滑らかにし、香りづけをして、岸田さん流のギモーヴを誕生させた。 こうした発想の仕方は、過去に感動したものにも向けられる。たとえば、『カンテサンス』の定番スペシャリテとして名高い、山羊乳のヴァヴァロア。これは、「フランスにいたときに食べたイタリアのブラータ。山羊のフレッシュチーズにオリーブオイルと塩をかけただけのものだったけれど、すごく感動した」体験が原点であり、同時に「普段、縁の下の力持ち的な存在のオリーブオイルや塩を、主役としてスポットライトをあててみた」一品でもある。また、山羊乳は草を食べる春夏と穀物を食べる秋冬で、その味わいは変わる。その変化は楽しませつつ、ワインのようにその収穫年によって大きく味の変わるオリーブオイルは、ブレンドを施すなどしてイメージするテイストを守っている。 レストラン カンテサンス,ミシュランガイド東京,三つ星 山羊乳のヴァヴァロアは、ユリ根とマカデミアナッツの食感も楽しめる さまざまな試みやアイデアは、いつも日々の仕込みをしながら同時並行で考える。 岸田シェフ「キッチンで、いろんな素材を実際に触りながらでないと、沸いてこないんです。実験的なことも、仕込みの隣でやっていますね」 蒸し上げたクスクスを敢えてほぐさず、固まった状態のまま表面を焦がしたクスクス料理。ある日、この固まっている状態を見て、おこげをイメージし、生まれた料理だという。こうして、今後もこのキッチンから、岸田シェフの思う本質を伴った料理がサプライズ感をまとわせて誕生するのだろう。 レストラン カンテサンス,ミシュランガイド東京,三つ星 ハマグリの汁で戻したクスクスに合わせるのは、蒸したツブ貝。上からトリュフを強めに効かせてあり、海の香りとトリュフの香りがふわっと立ち上る 東京のレストランの入れ替わりはすさまじい。何千、何万もの飲食店がひしめき合いながら、店もまたあっという間に淘汰されてゆく。「それほど恐ろしい世界で仕事をしているという自覚はある」と岸田シェフ。だが一方で、そんな恐ろしい世界で9年間、第一線を走り続けてきた自負もある。 岸田シェフ「僕がおいしいと思うフランス料理を提供する。その根本は変わりませんが、この9年の間にお客さまの求めるものを確認しながら、少しずつ変えてきてもいます。何がフランス料理なのかという問いは、非常に難しいですけれど、僕は見た目がどうあれ、丹念にその料理のルーツをたどったときに、フランスの伝統に行きつくもの、その系譜にあるものがフランス料理なのだと思っています。そして、そんなフランス料理の素晴らしさがお客さまにも伝わればといつも願っています」

Photographs by Koji Kita(内観、シェフ) Text by Tomoko Kawahara

Top Image:御影石のショープレート