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孫泰蔵が語る未来の仕事像「社長は不要な時代になる」

デジタル革新が様々な分野に堰を切って流れ込む昨今、ライフスタイルとともにワークスタイルも大きな変化が訪れつつある。連続起業家として知られるMistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEOの孫 泰蔵さんは、その潮流を敏感に捉えているようだ。

3月24日(金)に開かれたifs未来研究所主催のトークイベント「川島容子と社長の未来のおしゃべり会」では、「未来の働き方 社長はいらなくなる!?」といういささかセンセーショナルなタイトルが与えられた。同社の代表である川島容子さんの軽やかなファシリテーションにより、孫泰蔵さんがこれからの時代の働き方について楽しく語ってくれた。その模様をお届けしよう。

過去の事例から判断をするような単純作業は、AIに取って代わられる

孫さん「私いろんな国の起業家のサポート支援や、人を送り込んでのビジネス支援を行っていますが、最近は人工知能に関連する技術の起業が本当に多くて、私の想像を超えるくらいの進化ですよ。3年後くらいには、街中で絶対にぶつからない自動車が実現するでしょう」

その背景にあるのが、AI技術の爆発的な進化。最初はいわば“無能”なAIも、コンピュータ上でのシミュレーションを高速で重ねることにより、人間のレベルを遙かに凌駕する実力を備えつつある。過去の事例に則って判断をする仕事は、AIに取って代わられる可能性が高いとか。
川島さん「じゃあきっと、サラリーマンなんてさらにそうですね!」

孫さん「ええ、サラリーマンだけではありません。社長なんてさらに大変です。私自身の経験からいうと、上場企業はもっと顕著で、仕事の大半が上がってきた稟議の事案に法令遵守やコンセンサスの観点から『三方良し』と判断することなんです。しかも、優秀な中間管理職が確認したほぼ完璧なものを承認しています。だったら、AIに任せて、過去のデータを蓄積させたビックデータ解析を行って、限りなく間違う確率を減らした方がいいですよね」

ゆえに社長はいらなくなると、孫さんは語る。反面、残る仕事もある。それはクリエイティビティを伴う仕事。ビッグデータによる集積知で最適解を導くAIに対し、全く新しいアイデアをゼロから創り出すのは人にしかできない仕事だという。ほかならぬ孫さんも社長業はすでにやっておらず、アイデアを具現化することに注力しているようだ。

“職場”ではないオフィスで、チャレンジに徹する

孫さんが現在手がけているMistletoe株式会社は、一つの理想型だという。

「法的な意味で法人の代表ではありますが、いわゆる世間一般的な社長ではないんです。合意の形成や仕事のアサインも『スラック』などの社内コミュニケーションツールで、『これをやりたいですが、どう? 一緒にやりたい人いる?』と聞いています。意志決定の拒絶もありません。やるかを決めるのは本人(社員)です」

様々な企業の経営に携わり、順調に“キャリア”を重ねているように見える孫さんだが、会議ばかりの仕事に「自分がやりたいことはこれではない」と感じる、いわば「第2思春期のように悶々とした」時期があったという。そのような期間を経て、シリコンバレーのようなスタートアップが次々生まれる環境を作ることが、ある種究極の“クリエイション”だと思いついたそう。
「やりたいことをやれる環境を目指しています。社員に対しても、失敗を恐れずチャレンジするよう促しています。また現在、『Working Anywhere』という概念を作り、出勤しなくてもいいし、原則的にいつどのように働いてもいいようにしています」

川島さん「じゃあ、沖縄に行っちゃっても大丈夫?」

孫さん「いいんです。出張規程の範囲内なら。今後は、オフィスはワークスペースではなく、ミートアップスペースと銘打って自然と交流ができるカフェのような空間にしたいと考えています。それは、セレンディピティ(偶然の出会いや発見)のため。スタートアップって、会社じゃないところから生まれるんですよ。目的なくリラックスしている時間でしか生まれないことなんですね。そこで重視したのがランチタイム。『昼飯だけは食べに来る』というシステムを作りたいと考えています」

かくして孫さん、広範囲の起業支援を行いながら、“セレンディピティが起きる環境”を作ることを最終目標に掲げているという。
孫さん「人工知能の時代が来つつあり、働き方や暮らし方もアップデートする必然に迫られています。しかし仕事や生活の環境が大きく変わるとき、どうしても馴染めない人が出てくると思います。それらを押しつけるのではなく、自然とそうなった…と多くの人に違和感なく受け入れてもらえるための環境デザインがしたいんです」

AIに負けない人材になるために。必要なのは“環境作り”

孫さんが心を砕く“環境作り”において、すでに実現したものもある。教育分野においては千葉県・柏の葉T-SITEで様々な分野の専門家が子供たちのもの作りをサポートする環境を構築するなど、精力的な活動をしているそうだ。

その後、質疑応答を経てトークショーは盛況の内に終了した。会場内で開かれた懇親会で、孫さんにひとつ質問をぶつけてみた。

AIの台頭によって“いらなくならない”ように、クリエイティビティを発揮するためには、どうしたらいいのだろうか。
孫さん「実は考えて唸っても、出ないんです。ですからちょっとでも興味がある分野の人が集まる場に飛び込んで、その環境に自分をさらすことです。『これやりたい』というものは、人との運命的な出会いから沸き起こることがほとんど。人間は社会的な生き物ですからね。そういう環境で友だちを増やしていくと、やりたいことがはっきりしてきます。会社と家との往復では、それこそ出てきませんよね」

つまり、AI時代におけるよりよい仕事とは、自発的に新たな分野を探し、ゼロベースでアイデアを具現化する能力が求められるということだろう。いまいちピンと来ないならば、それこそ孫さんがいうように、人が集まる様々な環境に身を置いてみることが、近道といえるかもしれない。

text by Msayuki Kisyu

photography by Kazuya Hayashi