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第10回 | フィアットの最新車デザイン・性能情報をお届け

チンクの文化的価値──MoMAに展示されるヌォーヴァ500

マンハッタンのミッドタウン53丁目にあるニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art, New York)は、その頭文字からMoMA(モマ)と呼ばれるモダンアートの殿堂だ。収蔵されるのは美術作品だけにとどまらない。建築、プロダクトデザイン、写真、ポスター、映画など多岐にわたる。むろん自動車もその対象で、ピニンファリーナが手がけた1948年型のチシタリア『202クーペ』は、現代の造形デザインを代表する“動く彫刻”として永久展示されているほどである。このMoMAに、「Nuova 500(ヌォーヴァ チンクエチェント)」こと2代目フィアット『500』が展示されることとなった。

「ヌォーヴァ500」は『カリオストロの城』でルパンが乗っていた黄色いフィアット

「ヌォーヴァ500」は、「トッポリーノ」こと初代フィアット『500』の後継として1957年に登場し、1975年までおよそ20年にわたり生産されたイタリアのコンパクトカーである。初代と区別するために、イタリア語で「新しい」を意味する「Nuova」の愛称が与えられた。「500」をイタリア語読みした「チンクエチェント」と呼ばれることも多い。

日本では、宮崎駿監督によるアニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』の劇中車としてなじみ深いだろう。あのときルパンが乗っていた黄色の小さなクルマが、まさに「ヌォーヴァ」だ。フィアットでは現在も同じ車名の『500』が生産されているが、これは2代目を現代的な解釈でリバイバルしたもの。オリジナルは「ヌォーヴァ」である。

デザインを担当したのは、イタリアのカーデザイナーで、エンジニアでもあるダンテ・ジアコーサ。その特徴は、丸みを帯びた全長約3mの小さなボディと、もかかわらず大人4名が乗車できたこと、そしてリアに搭載された空冷2気筒479ccエンジンにある。

エンジン出力はわずか15馬力だったが、軽量ボディのおかげで最高速度は90km/hに達した。ちなみに、「ヌォーヴァ」には開閉式のキャンバス製ルーフが採用されているが、これは室内騒音が大きい2気筒エンジンのサウンドを逃がすためであったという。

『ベスパ』から小型車の『500』へ。自動車を買えなかったイタリア市民に大ヒット

「ヌォーヴァ」が登場した1957年当時、イタリア経済は第二次大戦敗戦の影響とその後のインフレにより壊滅的な状況にあった。当然、自動車を買える市民は少ない。『ベスパ』をはじめとするスクーターやイソ『イセッタ』などのキャビンスクーター(二輪車をベースにした簡便な三輪、あるいは四輪の自動車)が移動の足として使われた。

この当時、フィアットには1955年に販売を開始した空冷4気筒エンジンの『600(セイチェント)』が存在していたが、より小型で廉価なクルマのニーズがあると判断。そこで市場へ投入されたのが、『600』をひと回りコンパクトにした『500』というわけだ。

フィアットによる大々的なキャンペーンの効果も相まって、「ヌォーヴァ」は目論見どおりにヒットし、瞬く間にイタリアを代表するコンパクトカーとなった。ローマやミラノなどの都市部に行けば、そこかしこで目にすることができる。そんな存在になったのだ。

『500スポルト』『500 F』『500 R』『500 D』といったバリエーションモデルの追加やマイナーチェンジを繰り返し、さらにワゴンボディの『500ジャルディニエラ」もラインナップ。スクーターから「ヌォーヴァ」へという流れはヨーロッパ全土に拡大し、最終的には1975年まで生産された。その総生産台数は、じつに367万8000台に達する。

MoMAの展覧会で“機能を伴った形の表れ”の一例として展示される「ヌォーヴァ500」

その「ヌォーヴァ」がMoMAで今年2月10日から5月27日まで開催される工業デザイン展、「The Value of Good Design(グッドデザインの価値)」に登場する。

「The Value of Good Design」は、当時のグッドデザインが今日に何を意味し、どんな価値を生み出してきたのかを再定義するもの。ここに「ヌォーヴァ」は“機能を伴った形の表れ”の一例として展示されるようだ。あの丸みを帯びた愛嬌のあるボディは、少しでも軽量にするために表面積を少なくして使用する鉄を減らし、同時に強度をもたせる意図もあったと設計者のダンテ・ジアコーサが晩年に語っている。それにより、「ヌォーヴァ」は家族4人が乗れる手頃な価格の小型車として、イタリアの戦後復興にひと役買った。

MoMAのデザイン展に「ヌォーヴァ」が展示されるということは、このクルマが“後世に残すべき文化的価値”として認められたということである。フィアットにとって、そして自動車業界全体にとっても、大きな意味をもつ展示になるのではないだろうか。

Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) Fiat Chrysler Automobiles
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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