基地局や交換局など様々な設備を経由してつながる携帯電話
まず予備知識としておぼえておきたいのが、モバイル通信ネットワークが、携帯電話同士や携帯電話とインターネットをつなぐための道のり(伝送路)である。通話を例に簡単に解説しよう。
トランシーバーのように端末同士が直接無線でつながっていると思っている人がいるかもしれないが、実際には発信元の携帯電話は、まず最寄りの「無線基地局」に接続される。そこから先は、無線のほか光ファイバー網などの有線で「交換局」や「サービス制御局」といった各種の通信設備を経由し、相手先の携帯電話と接続されている無線基地局にたどり着き、通話をつないでいるのだ。

インターネットに接続する際も同様に、まず最寄の無線基地局に接続し、NTTドコモの場合はそこから「iモードセンター」や「SPモードセンター」を経由しインターネットに接続される。
つまり、モバイル通信ネットワークが“つながる”ためには、無線基地局をはじめとする各種の通信設備が正常に稼働することが必須条件となるわけだ。逆に言えば、通話やネット接続ができない、またはつながりにくくなる主原因は、通信設備のトラブルにあるということになる。
すべての通信設備を24時間365日監視する「NOC」の仕事
そのため、モバイル通信ネットワークを担う企業でもっとも重要な存在となるのが、通信設備が正常に稼働しているかを監視し、トラブルがあれば復旧にあたる業務だ。
NTTドコモの場合は、東京と大阪の2か所に「NOC(ネットワークオペレーションセンター。大阪拠点の正式名称は西日本オペレーションセンター)」と呼ばれる施設を置き、24時間365日体制で、通信設備を含むネットワークシステム全体の監視と保守業務を行っている。

メインとなる監視・保守のセクションでは、総勢400名以上のスタッフが交代で、無線基地局をはじめとする全国46万台を超える通信設備を監視。フロアには巨大な監視モニタが設置され、些細な異常も見逃さず、すぐに適切な対応がとれるようになっている。
実際に施設を見学させたもらったが、目まぐるしく更新される監視モニタ上のステイタス表示に、まず圧倒された。聞けば、機器の故障やトラフィック発生はもちろん、対象となる設備の空調オンオフやドアの開閉など、些細な変異までしっかり監視されているという。このように厳重な監視体制により、トラブル発生の際にも迅速な対応ができるわけだ。
災害時対応を含めた保守、復旧作業もNOCの重要な任務
NOCで行われているのは、もちろん監視だけではない。たとえばソフトウェアレベルのトラブルなら、直接センターから機器の再起動などの操作ができるようになっているし、ハードウェアレベルの場合は現地のスタッフに点検や修理などの指示も出している。
地震や台風などの大規模な自然災害で設備が使用不能になった場合は、代替となる移動基地局車や移動電源車を派遣するほか、使用可能な設備を使った経路への切り替え、または必要に応じ通信制限の指示を行うのも、NOCの重要な仕事だ。
このほかNTTドコモでは、2011年の東日本大震災を教訓に、緊急時には広範囲の通信をカバーする性能を持つ「大ゾーン基地局」を全国106か所に設置したほか、通信衛星の利用や基地局の機能を持つドローンの研究や導入検討など、ライフラインを守るための取り組みを積極的かつ持続的に行っているという。
アイドルのライブも影響⁉ 混雑対策には幅広い知識が必要
災害はもちろん、意外な理由によって起こる通信障害への備えについては、取材を通じ面白い話を聞くことができた。
かつて話題となった、お正月の「あけおめメール」による通信障害をおぼえている人もいるだろう。このように、人間の行動から生まれるトラフィックにも、NOCは備えておかなければならない。
具体的には、通信の混雑が予想される時期や場所に応じ、通信規制や移動基地局の臨時設置など適切な対応をとるわけだが、最近ではアプリ「ポケモンGO」の流行により、思いがけない場所でトラフィックが発生し対応に追われたこともあったという。

たとえばドームやアリーナ、スタジアム等の大会場でイベント等が開催される場合は、その内容から来場者数や、集まった人たちの行動パターンを予測し、設置する移動基地局の数を決めたりもするという。チケット販売等では、同じ事務所に所属するアイドルグループの公演でも、グループの人気によりトラフィックのリスクが大きく変わるため、最新のアイドル事情までカバーしなければならないというから、なんとも面白い。
このように、人間の行動様式やトレンドにも左右されるモバイル通信ネットワークの健全性。いつ、どんな時でも当たり前に“つながる”ことが、実はいかに大変なことか、おわかりいただけたのではないだろうか。
Text by Toshiro Ishii