世界も注目する「カプセルタワー」に住む
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世界も注目する「カプセルタワー」に住む

その特異な外観と設計思想から世界的に注目を集めている「中銀カプセルタワービル」。老朽化によって取り壊しも計画されていたが、有志による保存運動も活発化、現在では空きが出るとすぐに埋まってしまうほどの人気物件になっているという。設備の古さなどから、毎日の住居とするには若干覚悟が必要なものの、文化財としての価値はAクラス。セカンドハウスや事務所として利用する人も多く、その愉しみは利用者しか味わえない。今後の保存活動の展開によっては、資産的な価値も期待できるかもしれない「中銀カプセルタワー」の魅力を紹介する。

「メタボリズム」を志向した黒川紀章初期の代表作

「鳥の巣箱の集合体」「ドラム式洗濯機を積み上げたような外観」…さまざまなコトバで形容される奇妙なデザインのビルディングをご存じだろうか。銀座と汐留の間の蓬莱橋交差点のあたりに建っており、首都高を走っているとボンヤリと目に入ってくるので、都内在住の人には印象深いかもしれない。

この建物の正式な名称は「中銀カプセルタワービル」。世界的な建築家である黒川紀章の初期の代表作であり、彼とその仲間たちが提唱した建築思想「メタボリズム」を具現化したビルディングだ。その名称の通り、鳥の巣箱のような丸い窓のついた部屋はひとつひとつがカプセルになっており、2棟に全140戸が取り付けられている。古くなったカプセルは交換することも技術的には可能という、まさにメタボリズム(新陳代謝)な設計で、他に類をみない思想と形状を持った集合住宅だ。

このカプセルの魅力に取り付かれ、いまでは9戸を所有する前田達之さんにお話を伺った。

「私は、この近くの職場に勤めていて、毎日このビルの前を通っていただけだったんです。ある日、電信柱に『売カプセル』という張り紙を見つけて、思わず衝動買いしてしまったのがはじまりですね」

当時の購入価格は400万円ほど。それを少しずつメンテナンスしていったという。
「週末にカプセルを訪れて、自分の手でリノベーションしていきました。大変ですけど、そのぶんだけカプセルが愛おしくなりますね」

所有者らによる保存・再生プロジェクトも

ビルの竣工は1972年。すでに築43年が建っており、老朽化も進んでいる。07年には取り壊し計画も立ち上がっていたが、リーマンショックの影響や、住民の足並みが揃わなかったため、現在もそのままの状態で保存されている。

「分譲物件なので、オーナーがそれぞれ違っていて、さらに譲渡や相続などで所有権が複雑になっているカプセルも多いんです。私は取り壊しには反対なんですが…」

前田さんは、「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」の代表としても活動している。

「私は大規模修繕で保存できればと思っています。このビルが好きで住んでいる人たちもたくさんいるし、メディアに取り上げられることも増えている。海外からの視察希望も殺到しています」

保存運動の一環として、クラウドファンディングで資金を集めてビルの写真集を製作、出版にも漕ぎ着けた。実際に物件としても人気が高まっており、売りに出されればすぐに契約されてしまう状況だという。賃貸もごくまれに出回るが、空き室の順番待ちができるほどだ。

都会のセカンドハウスや趣味の部屋として活用する人も

実際にカプセル内を観させていただいたが、これは確かに「所有欲」を刺激する。広さは10㎡ほどで確かに狭いが、その包み込まれるような感覚はカプセルだからこそ味わえる居心地の良さ。デザインには、70年代らしい近未来なテイストが漂っており、40男なら絶対にグっとくるはずだ。

「私もそうなんですが、住居は別にあってセカンドハウス的に使われている方が多いですね。趣味を楽しむ部屋にしたり、シアタールームに改造したり。会社から家に帰る前にちょっと寄って、自分の時間を楽しむという使い方にはピッタリです」
立地的にも憧れの「銀座」。周辺の不動産価格から比べても割安な物件でもある。

「オーナーにはクリエイターの方も多いですね。事務所をカプセルタワーにすると、会話のとっかかりになるので仕事が増えるみたいですよ」

カプセルを愛する住民たちの横の繋がりもあり、オーナー同士で飲み会などの交流もあるという。

老朽化という課題はあるが、この独特の空間は唯一無二。資産運用だけでなく、歴史的建築物の保存という文化的な側面からでも、手に入れてみる価値はある。ミドル世代になった「男の愉しみ」と、あの頃の「男のコの憧れ」を同時に満たすことができる、超貴重物件であることは間違いない。

Text by Gen Ohtani(Seidansha)