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白洲次郎も惚れる!?──創業100年を祝うミュルザンヌ

「従順ならざる唯一の日本人」。GHQに戦後そう評された白洲次郎は、若くしてケンブリッジ大学に留学し、英国流の洗練された流儀を身につけた。カーガイであった彼がその地で愛したクルマがベントレー『3リットル』である。白州の英国留学は1919年から。奇しくも、ウォルター・オーウェン・ベントレーがロンドン・クリクルウッドにベントレー・モーターズを設立した年だ。つまり、来年2019年は、ベントレーにとって創業100年のメモリアルイヤーとなる。その記念に100台限定で発売されるのが『ミュルザンヌ W.O.エディション』だ。

ベントレーの頂きに鎮座する『ミュザンヌ』をベースにした100台限定モデル

『ミュザンヌ』は、6.75LのV8ツインターボエンジンを搭載した4ドアセダン。ベントレーの頂きに鎮座するフラッグシップモデルだ。

その名は、ル・マン24時間耐久レースが開催されるサルト・サーキットに存在するコーナーから取られた。ベントレーは設立当初、ル・マンで5回の優勝を飾ることでスーパースポーツメーカーとして名を馳せ、富裕層を魅了した。その矜持が『ミュザンヌ』という車名に込められている。

この『ミュザンヌ』をベースにした限定車が『ミュルザンヌ W.O.エディション』だ。『ミュザンヌ』には、『ミュザンヌ』『ミュザンヌ スピード』『ミュザンヌ エクステンディッド ホイールベース』という3モデルが存在するが、そのいずれもベース車両にすることが可能だという。

サブネームの『W.O.エディション』にあるW.Oとは、ウォルター・オーウェン・ベントレーの頭文字であり愛称だ。言わずもがな、ベントレーの創業者である。名は体を表すではないが、このスペシャリティカーがどれほどの思い入れを持って生み出されたかは、説明するまでもないだろう。

女王陛下にも御料車を献上した「マリナー」が手がける『W.O.エディション』

『ミュルザンヌ W.O.エディション』を手がけるのは、ベントレーのクルー本社工場にある「マリナー事業部」である。もともとは、ベントレーとは別会社の名門コーチビルダー(ボディ製造工房)。その歴史は16世紀にまで遡り、馬具製造工房を祖業とする。

マリナーとベントレーが深くかかわるようになったのは、1923年のロンドンモーターショーからだ。白州次郎も魅了された『3リッター』の特別仕様車『3リッター スピードモデル』をマリナーが手がけたことが縁となる。

マリナー事業部は、(1)シャンパンクーラーなどを設置する装備部門、(2)限定車を手がける限定車部門、(3)オーナーの嗜好や使用目的などに合わせてカスタムしたり新調したりするビスポーク部門、(4)特装ボディの架装を行うコーチビルディング部門──の4部門に分かれる。

コーチビルディングでは、2002年にエリザベス2世のために英国王室に納入された御料車『ステートリムジン』が有名だ。

創業者W.O.ベントレーの愛車から切り出されたオブジェが飾られるインテリア

『ミュルザンヌ W.O.エディション』の世界観は、W.O.ベントレーが最後に手がけたベントレー『8リッター』に由来する。

英国車の黄金時代である1930年に100台のみが生産された限定車で、W.O.ベントレー自身も愛車として所有していたという。『ミュルザンヌ W.O.エディション』には、その愛車のクランクシャフトから切り出した薄片がオブジェとして飾られる。

オブジェが飾られるのは後部座席にある照明付きのカクテルキャビネット。開くと、『8リッター』のフロントマトリックスグリルとヘッドライトをモチーフにした幾何学模様のテーブルが現れる。くだんのオブジェは、そのテーブルに埋め込まれる。W.O.ベントレーの署名が刻印されたその様は、まるで芸術作品のようだ。

1930年製造の『8リッター』の世界観をモチーフにしているだけあり、全体の雰囲気は当時流行したアールデコ風だ。たしかにカクテルキャビネットの幾何学模様などはアールデコを感じさせるが、その本質は、都市が発展するなかで生活に適応されていった実用的でシンプル、直線的なデザインだろう。

『ミュルザンヌ W.O.エディション』も華美な装飾が施されているわけではない。しかし、革から調度品にいたるまで、すべて超一流の素材が使われているので、随所に品の良い豪華さが漂う。

内装のカラーは『8リッター』をオマージュしたマゼンタ系。外装も同じ理由からオニキスが採用された。ホイールもブラックで、『8リッター』と同様の威風堂々とした豪華さを醸し出している。

『ミュルザンヌ W.O.エディション』の発売はメモリアルイヤーとなる2019年

『ミュルザンヌ W.O.エディション』は、8月下旬にアメリカ西海岸で開催されたペブルビーチ・コンクール・デレガンスで一般公開された。発売はベントレー創立100周年のメモリアルイヤーとなる2019年の予定だ。

ベントレーが培った100年という歴史の重みを感じさせるスペシャルモデル『ミュルザンヌ W.O.エディション』。白洲次郎をはじめとする本物を知る先達たちに愛されたように、きっと後世に語り継がれる一台になるだろう。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Bentley Motors
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)