プロジェクトSCG003
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とあるビリオネアの夢のクルマ「SCG003」

「プロジェクトSCG003」という名の、理想のスポーツカーを追い求めたひとりの男の情熱がついにカタチになった。それが今年のジュネーヴショーで発表された「Scuderia Cameron Glickenhaus 003」。エンジン以外に自動車メーカーの力を借りることなく、スタイリングもエンジニアリングも全てゼロから作り上げられた究極のクルマだ。2回連載の第1回目ではそのプロジェクトについて解説した。第2回では、このマシンを創り上げたジム・グリッケンハウス氏と彼のチームを紹介する。

  「Scuderia Cameron Glickenhaus(SCG)003」というスポーツカーの理想像を描き、1年8ヶ月をかけてその理想のスポーツカーを作り上げたのが、ジム・グリッケンハウス氏。彼がSCG003S(Stradale=ストリート)とSCG003C(Competizione=レース)で作り上げたのは「自宅からル・マンへ行ってレースをして帰って来られるスポーツカー」だ。 プロジェクトSCG003 テスト中のSCG003C ジム・グリッケンハウス氏は、ニューヨークの金融会社創業社長の息子として生まれた。家業に合流する前にはハリウッドで映画監督なども経験したようだが、そんな彼が情熱を傾けたのがフェラーリをはじめとしたレーシングカーやスポーツカーだった。彼のコレクションには非常に貴重なモデルが何台もあるのだが、中でも特徴的なのが、いずれも1960年代後半に生まれた4台のレーシングスポーツカー、フェラーリの330P3/4と412P、フォードのGT40 Mk.IVとローラのT70だ。この4台に共通するのは、どれも当時のトップカテゴリーのレーシングカーでありながら、一般公道も走れたクルマという点。ここに彼の理想のスポーツカー像の原点があるのだろう。つまり、レーシングカーとスポーツカーの垣根が曖昧で、技術もデザインも未熟ながら魅力に溢れていた1960年代のクルマを、現代によみがえらせたのがSCG003プロジェクトだったのである。 プロジェクトSCG003 330P3/4をモチーフにしたP4/5のスケッチ 実はグリッケンハウス氏は、同じような試みを約10年前にカタチにしている。それがフェラーリの限定車エンツォ・フェラーリをベースにイタリアのカロッツェリア・ピニンファリーナで一品制作した「フェラーリ P4/5 byピニンファリーナ」だ。その名前から想像できるとおり、前述した60年代のフェラーリ製スポーツレーシングカー330P3/4のデザインを現代的に復刻したモデルで、世界中から注目を集めた1台だ。その後、同じデザインモチーフを用いながら、ベース車両をレーシングカーのフェラーリF430 GT2に置き換えた「P4/5 Competizione」でスポーツカーレースへの参戦を開始すると、それをハイブリッド化した進化型「P4/5 Competizione M」を開発したのだった。 プロジェクトSCG003 P4/5 Competizione(左)とP4/5 by Pininfarina(右) ちょうどこのP4/5 Competizioneの頃、グリッケンハウス氏の独自開発車両にフェラーリの名前とバッヂを付ける許可がフェラーリから降りなくなった。それを受けて彼は自らのチーム「Scuderia Cameron Glickenhaus」を立ち上げ、クルマも「SCG P4/5 Competizione」と名付けなおした。そして彼の最初のプロジェクトであったフェラーリP4/5 byピニンファリーナと、その次のプロジェクトにあたるP4/5 Competizioneをそれぞれプロジェクト番号「001」と「002」とし、完全新開発の新プロジェクトとして「003」をスタートしたのだ。こうした経緯あって、SCG003には”3″というナンバーが付いたのである。 プロジェクトSCG003 ジム・グリッケンハウス氏とSCG003プロジェクトのキーマンたち パオロ・ガレッラ氏(写真左/左)とローウィ・ヴェルメールシュ氏(写真右/右) 最後に、彼の理想のスポーツカーをカタチにするにあたって重要な役割を果たした人物を二人紹介しよう。プロジェクト・ディレクターを務めたパオロ・ガレッラ氏とチーフデザイナーを務めたローウィ・ヴェルメールシュ氏だ。ガレッラ氏はピニンファリーナで長くエンジニアリング部門の要職を務め、グリッケンハウス氏の最初のプロジェクトであるフェラーリ P4/5 byピニンファリーナの開発においても責任者を務めた人物だ。SCGプロジェクトの要といっていい人物である。また、ヴェルメールシュ氏も元ピニンファリーナのデザイナーで、現在はトリノでグランストゥディオというデザイン会社を率いている。代表作は、世界的にも評価の高かったアルファロメオ・ドゥエットッタンタ(ピニンファリーナ)である。ともすると実戦主義一辺倒で無骨になりがちな、現代レーシングカーのデザインを美しくまとめた手腕は評価されていいだろう。この二人の優秀な能力とグリッケンハウス氏の情熱とヴィジョン(そして相当な資金)があって初めて、SCG003は生まれたのである。 プロジェクトSCG003 スポーツカーやレーシングカーに興味を持つ者なら、誰しも理想のクルマを夢想したことはあるだろう。しかし実際にそれを現実のものとすることは難しく、多くは夢想で終わるものだ。だからこそ、その理想をカタチにしたSCG003は自動車史に残る偉大なクルマの1台なのである。

Text by Koyo Ono Photo by Scuderia Cameron Glickenhaus, Pininfarina