SCG003
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公道も走れるレースカー「SCG003」は4億円あれば買えそうだ!

「プロジェクトSCG003」という名の、理想のスポーツカーを追い求めたひとりの男の情熱がついにカタチになった。それが今年のジュネーヴショーで発表された「Scuderia Cameron Glickenhaus 003」。エンジン以外に自動車メーカーの力を借りることなく、スタイリングもエンジニアリングも全てゼロから作り上げられたクルマだ。本記事では2回の連載でこの世界中から注目を集めた究極のスポーツカーを紹介する。第1回ではそのプロジェクトとマシンについて解説しよう。

  あなたにとって理想のスポーツカーの条件はなんだろうか? 人それぞれにスポーツカーの定義はあるだろうが、ニューヨーク在住の金融マンで映画監督でもあったジム・グリッケンハウス氏にとって、理想のスポーツカーは「ル・マンのサルト・サーキットまで自走で行き、レース用のセッティングに変えて24時間レースを走り、またもとのセッティングに戻して家まで帰れるクルマ」だった。そしてその理想をカタチにするために、自らプロジェクトを立ち上げチームを作り、ゼロから作り上げたのがこの「Scuderia Cameron Glickenhaus(SCG)003」である。SCGは彼が耐久レースに参戦しているチームの名前で、003はプロジェクト番号だ。 SCG003S SCG003S このSCG003には、公道用の003S(Stradale=ストリート)と、レース用の003C(Competizione=レース)というふたつのモデルがある。どちらもシャシーの基本的な構造は共通で、ボディやウィングなどが異なっている。これはレーシングカーの場合、参戦するレースのレギュレーションにも対応する必要があることを考えれば当然だろう。いずれにせよ、003Sから003Cへのコンバージョンはそれほど難しくないと思われる。 シャシーの開発は、このSCG003プロジェクトのチームと、ボディデザインを担当したトリノのグランストゥディオ社が共同で行った。細かく作り込まれたカーボン製シャシーはレースを戦える高い剛性を備え、同時に空気の流れを巧みに制御した空力性能も併せ持っている。また、このシャシーの特徴といえるのがエンジンの選択はオープンであるということ。すなわち、構造的に搭載可能なサイズであれば、希望のエンジンが好きなように搭載できるので、自分が望むエンジンを自分が走る環境(またはレース)にあわせて変更できるということだ。これはレーシング・コンストラクターのようなアプローチともいえるだろう。 SCG003 SCG003Sには、アメリカホンダから供給されたV6ツインターボのエンジンが搭載されている。そのエンジンはヒューランド製のギアボックスとともに、カーボン製のサブフレームがリアのシャシーに搭載され、そのサブフレームがメインのシャシーに締結されることでクルマの主となる部分が完成する。そこにサスペンションやブレーキやタイヤ、センサーやECUなどの電子部品をつけ、ボディパネルなどをかぶせれば003Sが出来上がる。と書くと簡単なようだが、機械部品だけではなくセンサーや電子制御システムなどが複雑に入り組んだ現代のクルマを、高い性能でしかも安全に走らせるのは相当な仕事量を要するはずで、グリッケンハウス氏と彼のSCGはとてつもなく大きな仕事を成し遂げたということなのだ。 SCG 003C SCG 003C 同時に公開されたSCG003Cは、前述のとおりSCG003Sのレース仕様である。コンセプトにル・マンを描くだけあって、基本的には現代の耐久スポーツカーレースのレギュレーションに準拠した設計になっている。特にリアウィングやディフューザーなどの空力系パーツがSCG003Sと大きく異なっており、ヘッドライトは夜間のサーキット走行を想定して大径のものに変更されている。またこの1号車に搭載されるエンジンは、アメリカホンダ直系のレース開発会社HPD(Honda Performance Development)社から供給を受けた3.5リッターV6ツインターボエンジンで、それをイタリアのアウトテクニカ・モトーリ社で開発している。 彼のチームはこのSCG003Cで今年のニュルブルグリンク24時間耐久レースに参戦予定だ。理想の対象であったル・マンはさらに規則が複雑なため、グリッケンハウス氏は「ル・マン24時間レースの運営が、実験的な特別枠という扱いでのレース出走を許可してくれたら、と願っている」と語っている。 SCG003 SCG003SとSCG003C。この2台はグリッケンハウス氏の”理想のスポーツカー”への情熱から生まれた、彼にとっての究極のドリームカーでもある。ちなみにこのドリームカーは希望者からの注文も受け付けており、その価格はストリート仕様で260万ドル(約3億1200万円)程とのことだ。

Text by Koyo Ono Photo by Scuderia Cameron Glickenhaus