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名車W124——バブル世代が愛するメルセデス・ベンツ

2016年、世界の高級車販売台数で12年ぶりにBMWから首位を奪還し、日本でも4年連続で過去最高を記録して2年連続「輸入車1位」となったメルセデス・ベンツ。名実ともにラグジュアリーカーの代表というべきブランドである。しかし、バブル期を経験した大人の男たちには、いまだに「ベンツ」と聞くと、1980〜1990年代にかけて作られ、コードネーム「W124」で呼ばれたミディアムクラスのセダンを思い浮かべる人も多いはずだ。成功を夢見ていた当時の若者にとって、あの「網目グリル」「角目ヘッドライト」のベンツは、まさに富の象徴であり、憧れのクルマだった。W124は現在も名車として高い評価を受け、あえて愛用するクルマ好きも多いという。

六本木をW124で流すのがステータスだったバブル時代、40〜50代が憧れた“ザ・ベンツ”

「W124はいまでも根強い人気があります。間違いなく『名車』といっていいでしょう」。こう話すのは、W124専門店「アローズ」で代表取締役をつとめる関根友治さんだ。

W124とは、1985年から1995年まで生産されたメルセデス・ベンツのミディアムクラスセダンのコードネームで、現在の『Eクラス』の祖となるモデル。セダンのほかにも、クーペ(C124)、ステーションワゴン(S124)、カブリオレ(A124)がラインナップされ、タクシーやリムジンでの使途を目的としたロングボディの6ドアリムジンも存在した。

ちなみに、当時のメルセデス・ベンツのモデル名は、いまの『E400』のように「アルファベット(シリーズ名)」+「数字」ではなく、「数字」+「アルファベット(ボディタイプ)」だった。『320E』や『500E』といった名前に懐かしさを覚える人もいるに違いない。

W124が新車で販売されていた当時の日本は、バブル景気の真っ盛りで、BMW『3シリーズ』がカローラ並に売れた時代である。W124も正規輸入業者のヤナセによって数多く輸入され、ヤナセが全国に張りめぐらせたディーラー網を通じて飛ぶように売れたという。夜の六本木をW124で流すことが、ある種のステータスでもあったのだ。

しかし、そのW124がいまも人気を集め続けているのは、バブル時代の憧れや当時へのノスタルジーだけが理由ではない。なんといっても、クルマそのものの完成度が高いからである。

「私がW124専門店を始めたのも、自分で『500E』を所有し、W124に感動したことがきっかけでした。とにかく、W124はパッケージ全体の完成度の高さが群を抜いているのです。クルマとしての完成度は、現在のメルセデス・ベンツ以上といってもいいでしょう」
(C) Jeremy Schofield
(C) Jeremy Schofield
(C) Jeremy Schofield

優れた安全性と主張のあるデザイン、W124ほど「質実剛健」が当てはまるクルマはない

関根さんによると、W124が名車といわれるゆえんは、まずエンジンの精度の高さにあるという。

「たとえば、クランクシャフトは異常なほど頑丈で、曲がったりしないのはもちろん、折れたりすることもあり得ません。耐摩耗性も秀逸です。このエンジンを受け止めるシャシーやボディもしっかりと作られていて、特にボディ剛性には目を見張るものがあります。いくらスピードを出しても、W124はよれることがなく、どんな場面でも不安になることがいっさいないのです」

こうした「誰もが安全に速く走れる」というフィーリング、極上の移動快適性は、W124にしかないものだ。それに加えてW124の魅力を高めているのが、重厚なデザイン。網目グリルの上部にあしらわれた「スリーポインテッドスター」は、これぞメルセデス・ベンツともいうべきその象徴である。

「W124のデザインには、クルマはこうあるべきというメルセデス・ベンツの主張が込められていて、文句なしに格好よく魅力的。そして、そのデザインの良さも、けっして張りぼてではなく、中身のクオリティを体現したものです。W124以上に『質実剛健』という言葉が当てはまるクルマは存在しないのではないでしょうか」

企業哲学を体現した「メルセデス・ベンツらしいクルマを作りたい」というメッセージ

バブル時代に高級車の代名詞となった名車にもかかわらず、関根さんの店ではセダンが150万円、ワゴンは200万円から購入可能だという。ただし、20〜30年前に作られた古いクルマだけに、定期的にメンテンスを行うなど、その後の「維持」が重要となる。

「安定性が良いとはいえ、セッティングは繊細なので、きちんと予算を立ててメンテナンスを施す必要があります。バランスが狂ったままではW124の魅力も半減してしまいます。特に足回りやエンジンのオイル漏れ。また、故障したから整備に出すというのではなく、故障箇所の周りの部分も含め、長期的に手入れをしていくことがベストコンディションを保つコツです」

関根さんは、整備のためにW124を分解すると、メルセデス・ベンツがこのクルマを開発するために費やした「膨大なコストや手間が見えてくる」という。そこにあるのは、メルセデス・ベンツの企業哲学である“最善か無か”を体現した「メルセデス・ベンツらしいクルマを作りたい」というメッセージである。

「W124は、いい意味で『オーバークオリティ』なクルマ。この『メルセデス・ベンツらしいクルマを作りたい』というメッセージが、ステアリングとアクセルを通じてオーナーにも伝わるのです」

関根さんの顧客には、調子が悪くなったW124を手放すことができず、新たにW124をもう1購入して2台持ちになったオーナーや、最新の高級輸入車を手に入れたのに、やはりW124を手放さず、「W124だけは乗り続ける」と語るオーナーがいるという。アートもそうだが、作り手に強い思いがなければ受け手の心は動かせない。だからこそ、W124はバブル期に爆発的に人気となり、現在も名車として大人のクルマ好きに愛され続けているのである。
(C) Slabu Sorin Daniel

Text by Tetsuya Abe

Photo by (C)Photon Broker(main)