男の隠れ家 201701
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ほっこり極上温泉、美味しい料理 そして女将の笑顔でおもてなし

雪の便りを聞く時季になると、温泉が恋しくなる
宿の玄関で温かい笑顔の女将に迎えられ
温泉に浸かって降る雪を眺める幸せを味わいたい

渋温泉
創業四百年の老舗宿で堪能する泉質の異なる6つの源泉
古久屋 [長野県山ノ内町]

夜の帳が下り始めた渋温泉。石畳のメイン通りに佇む「古久屋」。

女将のオススメ

一 バラエティー豊かな源泉かけ流しのお湯
二 70℃の市左衛門の湯で作った温泉玉子
三 信州と旬の味覚を楽しめる料理
上:宿自慢の源泉六湯露天風呂「福六の湯」。6つの檜風呂にそれぞれ異なった6つの源泉を満たしている。湯船の後ろに源泉名と温度、効能などが記されている。中右:古代檜風呂。中左:渋温泉で句会を開いた小林一茶に因んだ庭園露天風呂「一茶の湯」。下右:庭園露天風呂「華清の湯」。下中:「柔肌の湯」。下左:ローマ風呂風の空間の大浴場「最勝の湯」。



多彩な源泉と浴室を完備
温泉三昧を宿内で満喫

空が薄暮の色を深めてくると、石畳の小径にこぼれる旅館や土産屋の明かりがより温かく感じられる時間帯となる。町に響くのはカランコロンという下駄の音。浴衣に丹前、手拭いを手にした客たちは外湯を巡ったり、温泉饅頭の店をのぞいたり……。あぁ、これぞ湯の町、鄙びの情緒。古き日本の良さをしみじみ感じ入る風景は、昨今、外国からの客人の心も捉えているようだ。
訪ねたのは志賀高原の麓に湧く渋温泉。9つの温泉地から成る湯田中渋温泉郷の中のひとつで、奈良時代に行基上人が発見したと伝わる。古くは善光寺と草津温泉をつなぐ宿場町として栄え、後にこの地に湧く温泉の良さと豊富な湯量から信濃屈指の温泉街となった。

車1台がやっと通れるだけの狭い道沿いには、古色を帯びた旅館や土産物店、9つの外湯(共同浴場)などが軒を連ねている。外湯は基本的に地元専用だが、宿泊客は宿で巡浴手形の鍵を借りれば無料で入浴可能。9つの湯に浸かって九(苦)労を流し、高台にある高薬師に詣でれば満願成就となるのだそうだ。

その温泉街の中心部に、今宵旅の荷を解いた温泉旅館「古久屋」がある。名前は初代市左衛門が穀物問屋を営んでいたことから漢字を転じて〝古久屋〟に。渋温泉が宿場町だった時代の歴史を伝える創業四百年の老舗宿である。
打ち水された玄関の清々しさに滞在する期待が心地よく高まる

 

清々しく打ち水された玄関前の片隅には、流れ出る湯に沈む温泉玉子がいい感じで湯気を上げている。後で聞いたところによると、この源泉温度は70℃前後あり浸けておくだけでぷるんとした温泉玉子に。朝食にも必ず登場する宿の名物だ。
女将 小根澤恵理子さん/露天風呂付きのお部屋もあるので、気兼ねなく湯浴みが愉しめますよ!

 

そんな様子を眺めつつ玄関を入ると、「おかえりなさいませ」の声とともに女将の小根澤恵理子さんが出迎えてくれた。麗しい笑顔にこちらも思わず頬がゆるみ、ホッと心が和む。粋な着物姿と丁寧な挨拶はやはり日本の宿ならでは。最近増えている外国人客もこの独特の雰囲気が感動的でもあるようだ。
スノーモンキーとして人気を呼んでいる地獄谷温泉の湯に浸かる野生の猿。雪の露天風呂に入る姿がネットで紹介されてから、世界的に有名になった。地獄谷野猿公苑という観光名所になっている。8:30~17:00 入苑料800円。

 

「外国のお客さまには、渋温泉の町並とスノーモンキーが人気ですね(笑)」と女将さん。スノーモンキーとは渋温泉奥にある地獄谷温泉の湯に浸かる野生の猿のこと。今やすっかり世界的な知名度になっている。古久屋でも英語を話せるスタッフや館内に英語案内を表記。ちょうどこの日もイギリスからの家族が宿泊しており、浴室や外湯でたびたび一緒に入浴する機会が。渋温泉の湯は全体的に熱めだが、彼らは温泉の素晴らしさも絶賛していた。

特に古久屋は泉質が異なる6本もの源泉を有し、多彩な浴室がある。俳人・小林一茶にちなんだ庭園露天風呂をはじめ、大浴場や貸切露天風呂などが迷路のように入り組んだ館内に点在。もちろん全てが源泉かけ流しだ。なかでも面白いのが源泉六湯露天風呂「福六の湯」。

「一人用の6つの檜風呂に6つの源泉を引湯しているので、異なる泉質が順番に愉しめるんですよ」。恵まれた源泉を生かすための工夫です、と女将さんは笑みを見せる。

さっそくその木の香ゆかしい湯船に一つひとつ体を滑りこませる。熱めの湯はやはり加水が必要だが、ぬるめの湯から体を慣らして全てを制覇。ざざっーと湯を溢れさせる贅沢もまさに極楽! 温度、手触り、そしてわずかながら香りも異なる温泉をたっぷりと堪能した。
紅鱒のそぎ造り、佐久鯉糸造りなどを盛った向附。
信州牛や信州サーモンなどを使った揚げ物、酢の物、焼き物など。
「信州の味覚を存分にご堪能ください」と女将さん。

 

温泉の後は、滋味溢れる郷土の味をいただく。季節感と信州ならでは地の食材を生かした夕食膳は、目にも鮮やかな逸品揃い。地酒を傾けつつ味わえば、温泉でぬくもった心身にさらに幸せが染み込んでいくよう。渋温泉の静かな夜。日本に生まれてよかった……と言葉がこぼれた。