マネーロンダリングに利用されるタックスヘイブン
- 門倉貴史の「地下経済」講座 -

マネーロンダリングに利用されるタックスヘイブン

近年、世界各国で脱税や犯罪からなる「地下経済」が不気味に拡大している。このまま「地下経済」の拡大を放置しておくと、景況判断の誤りや税収の減少など様々な問題が引き起こされることになる。そこで、この講座では、日本を含めた世界各国の「地下経済」事情を紹介する。今回のテーマはタックスヘイブン。

■今回の講師 門倉 貴史

1971年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンクに入社。日本経済研究センター、シンガポールの東南アジア研究所、生保系シンクタンクを経て、現在はBRICs経済研究所代表。専門は国際経済、日本経済、地下経済、行動経済学など多岐にわたる。

存在感を増すタックスヘイブン

金融の自由化・国際化が進展するなかで、近年、タックスヘイブン(オフショア)と呼ばれる小国が急速に存在感を増しています。

タックスヘイブンというのは、税金がまったく課されないか、課されるとしても著しく低い税率が適用される国や地域を指します。よくヘイブン(haven)をヘブン(heaven)と勘違いして、「税金天国」と翻訳している人がいますが、これは間違いです。

タックスヘイブンの起源は古く、古代ギリシャやローマ帝国にまで遡ることができます。そして、現在のようなタックスヘイブンが確立するきっかけとなったのが、「ユーロダラー」(米国の外で預金されたり、貸し出されたりするドルのこと)の誕生です。「ユーロダラー」を使って行われる国際金融取引については、原則として、その国の通貨管理当局の規制を受けないことが認められたので、1960年代以降、「ユーロダラー」でタックスヘイブンを活用する動きが広がっていきました。

日本のGDPと同じ5兆ドルがタックスヘイブンに流れ込む

どの国がタックスヘイブンに属するかについては、明確な定義があるわけではなく、各国の税務当局などによって独自に判断されます。世界的に有名なタックスヘイブンとしては、たとえば、カリブ海のケイマン諸島やバハマ、バミューダ諸島、スイスなどが挙げられるでしょう。

マネーの国際移動が自由化される一方、税制度は国によって異なるため、可能な限り税負担を小さくしようと、世界中の企業や個人のマネーが競うようにタックスヘイブンへと流れ込んできています。IMF(国際通貨基金)の推計では、現在、日本のGDP(国内総生産)の規模に匹敵する約5兆ドルがタックスヘイブンに流れ込んできているということです。

企業の節税対策に利用されるタックスヘイブン

2001年末に経営破綻した米国のエネルギー大手エンロンもオフショア・ネットワークを駆使して租税回避を行っていました。

エンロンはタックスヘイブンに数百にも及ぶ関連会社を設立、96年から00年までの期間、法人税をまったく納めていませんでした。節税というよりは脱税をしていたエンロンがタックスヘイブンで成功した背景には、政治献金をしたり、積極的なロビー活動を行っていたことがあります。個人や企業にとっては、タックスヘイブンは便利な存在といえますが、各国政府の立場からすれば国家主権を脅かす危険な存在となります。ですから、タックスヘイブンで成功するには、エンロンのように前もって政府を懐柔しておく必要があるのです。

犯罪資金のマネーロンダリングにも利用されるタックスヘイブン

タックスヘイブンは、マネーの国外逃避という形で国家主権を脅かすだけではありません。麻薬取引・武器取引といった犯罪資金・テロ資金の隠匿先やマネーロンダリング(資金洗浄)にも利用されています。

私たちの記憶に新しいところでは、日本のヤミ金融グループ「五菱会」がタックスヘイブンを駆使してマネーロンダリングを行っていました。先ほど紹介したタックスヘイブンの資金総額5兆ドルには、クリーンなお金と一緒に犯罪などで獲得されたアングラマネーも紛れ込んでいるのです。

なぜ、タックスヘイブンがアングラマネーの隠匿先やマネーロンダリングに活用されるかといえば、タックスヘイブンでは、預金者のプライバシーが守られるからです。警察当局が麻薬取引などの証拠をつかむために資金の流れを追いかけても、タックスヘイブンにある銀行の守秘義務が防波堤となり、ここですべての捜査が行き詰まってしまいます。ですから、犯罪集団は麻薬取引などで獲得した非合法なお金をいったんタックスヘイブンにある銀行に預け入れて、実際にお金が必要になったときには、そこから引き出して使うようにしています。

タックスヘイブンの存在が日本の財政再建シナリオを狂わせるおそれも

最後に、こうしたタックスヘイブンの拡大は、今後、日本にどのような影響をもたらすのでしょうか。

最大の懸念材料は、日本の高い税率を嫌って、国内のマネーがタックスヘイブンに流出、その結果として大規模な資本逃避が起こるということです。タックスヘイブンにマネーが流出することによる世界全体の税収ロスは毎年2550億ドルに上るとの試算もあります。

かつては高度なテクニックが必要とされた租税回避の手法が一般化していくなかで、企業や個人がタックスヘイブンを活用する動きは今後ますます活発になっていくと予想されます。巨額の財政赤字や政府債務残高を抱える日本では、将来の大幅な増税が不可避とされていますが、無税あるいは低い税率で世界中のマネーを飲み込むタックスヘイブンの存在が、増税による財政再建というシナリオを大きく狂わせることになるかもしれません。

日本を含めた先進諸国は、国家主権と真っ向から対立する資本の自由化、そしてその申し子であるタックスヘイブンといかに折り合いをつけていくか、真剣に考える時期に差し掛かっています。

Text by Shimanpyou