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- 誰にも教えたくない。「行きつけの店」 -

男の浪漫に火をつける情熱のビストロ。浅草「トロワキュイ アサヌマ」

「その火を飛び越して来い」と少女が言ったのは、三島由紀夫の青春小説『潮騒』だが、古くは若山牧水から、宮本輝に椎名誠、村上春樹まで、燃え上がる火について語る男性はセクシーだ。そんな男のロマンに火をつけるビストロが、浅草からのんびり歩いても15分ほどの路地裏に佇んでいる。2016年7月にオープンしたビストロバル『トロワキュイ アサヌマ』だ。

トロワキュイ(3種の火)をあやつる、凄腕シェフ

店名の「トロワキュイ」とは、3種の火入れの意。炭火を軸とした、鉄板、オーブンの3種の“焼き”を巧みに使い分けて、季節の食材が味わえるビストロだ。扉を入るなり目に飛び込んでくる、ダイナミックなオープンキッチンに、まずテンションが高まる。カウンター席に座れば、浅沼健一シェフの調理の様子がライブ感覚で楽しめるという、目にもおいしい趣向である。
取材で店を訪れた時は、秋の味覚である秋刀魚の瞬間薫製中。店内に立ち上る香しい匂いが鼻を刺激し、食欲に火がつく。秋刀魚の脂が溶けるくらいの、ほんの1~2分スモークした、なめらかな食感の秋刀魚を、今日は、コクのある白ワインと生クリームのソースでいただく。トッピングの茗荷のピクルスや青紫蘇がさわやかなアクセントの一皿だ。

旬の食材にこだわり、その日の仕入れ状況でメニューが変わるスタイルにも、食いしん坊心がくすぐられる。これからのシーズン、シェフおすすめは、蝦夷鹿や鳩、鴨など、ジビエの炭火焼。炭火でじっくり焼きながら、肉のうまみを引き出していく。
ヒラメや蟹などの魚介類、フランスやイタリア産の香り高い茸類も、冬のご馳走だ。オーダーが入ってから、鉄のフライパンで20分かけて炊き上げるごはんものや、デザートの焼きリンゴに至るまで、“焼き”にこだわるシェフに、炭火焼の魅力を尋ねると「理屈抜きのおいしさ」と究極のひと言。
フレンチをはじめ、無国籍料理やタイ料理など、幅広いジャンルで腕をふるってきた浅沼シェフの豊富な経験は、サイドメニューにも活かされている。40男が童心に返って、かぶりつくという「こだわりフレンチフライ」は、ニンニクやローズマリーと一緒に、オリーブオイルで加熱したジャガイモのコンフィをさらに揚げるという、手間&技ありの逸品。ファンの多い「エビとアボカドのパクチーばくだん」や、根セロリのピューレが上品な、ムカゴや里芋、ゴボウなどそれぞれの食感が楽しい「秋の根菜グラタン」など、バラエティに富んだ味つけで、いくらでもお腹に入ってしまう。

さらに、粋なオプションつきの、教えたくない隠れ家

食材に合わせて、ハーブ&スパイスをあやつるシェフの、豪快かつ繊細な本格料理を堪能して、ふと窓の向こうを見渡せば、隅田川をのぞむ最高のロケーション。女性としっぽり訪れる男性客が多いのも納得だ。
食後は、スカイツリーを見上げながら、下町情緒あふれる街並みをそぞろ歩くもよし。あるいは、階上で営業中の、圧巻のワインセラーを誇る系列店のバー「Bar River Room蔵駒」で一服するもよし。誰にも教えたくない、スペシャルな隠れ家には、お腹も心も満たしてくれるぬくもりがある。

Text by Kana Ishimura