男の隠れ家 12月号
- 男の隠れ家 powered by éditeur -

昭和レトロ 喫茶探訪 貴重な昭和空間で一杯の珈琲を

日本最大、いや世界最大規模の古書店街、東京・神田神保町。古書店街と喫茶店の親和性は実に深い。巡りあったばかりの書物を開いたり、界隈に点在する出版社打ち合わせの場として、重宝される。数多くの名喫茶が集中するエリアなのである。

文◎沼 由美子
撮影◎佐藤佳穂

60年の歴史がしみる、街の“文化遺産” さぼうる (東京・神田神保町)

60年の歴史がしみる、街の“文化遺産”
さぼうる (東京・神田神保町)
艶やかな飴色の店内。客たちの土産で集まった、日本各地の民芸品も飾られる。

古書店街に鎮座する 懐深き昭和喫茶の名店

その中でも、押しも押されもせぬ風格を放っているのが、「さぼうる」だ。昭和30年(1955)に創業して早61年。街のランドマークとなっている。蔦の絡まる外観からして見惚れてしまうが、店内に入れば、山小屋のような木の温もりに溢れている。

古書店街に鎮座する
懐深き昭和喫茶の名店
右上/スタッフに、男女共に素敵な人が多いのも「さぼうる」ならでは。左上/コーヒー400円。いつもというわけではないが、ピーナッツが供されることも。右下/店頭では2本のトーテムポールがお出迎え。日本にわずか数台となった現役の赤電話もあり、通話もできる。左下/壁には寄せ書きのごとき、書き文字がいっぱい。中には、著名な人の一筆も。

 

小さな階段を上がった中二階はギュウギュウとこれまた小さな椅子とテーブルが配してあり、まるで小人の家のよう。半地下ではカーブのような穴蔵感が味わえる。初めての訪問ならば、一見しただけでは全体像を把握できないだろう。本の街で育まれた文化的な薫り、壁の書き文字に見られる濃密なエキスみたいなものが、ぎゅっと刻みこまれているこの店だけの空間。もはや街の〝文化遺産〟とでも呼びたくなる、時間が創り上げた飴色の空間なのだ。

 
内装は、開店時のまま。山小屋のようでもある。どの席に座っても目線が変わって楽しい。

 

だが、店の造りより何よりすごいのは、店を開いた当人、鈴木文雄さん(83歳)その人が今も店に立ち、客を案内し、スタッフに気を配り、店内全体を見守っていることである。「店に入ってらっしゃる前にどの席に案内するかを見極めなきゃ。どの位のお歳か、大きな荷物を持ってらっしゃるか、足は悪くないか。あ、あのお客様は毎日来て下さる。あの方はもう40年ぐらい通ってるね」。長年の経験からマスターの目の行き届き具合は、さすがのひと言。「毎日通うどころか、一日2、3回来てくれる人もいる」という。生きる看板のごときマスターの存在と、「いわずともわかっていてくれる」という安心感が、この店へ客の足を60年以上も引き寄せるのだろう。

 
右/マスターの鈴木文雄さん。カウンターの中にはキープボトルがびっしり。現在200本ほどで、最盛期には350本にも上った。左/カウンターからは小気味よいシェイクの音が聞こえることも。電灯には、近隣の煎餅屋『九段一口坂 さかぐち』の可愛い図柄のカレンダーを被せている。

 

ところで「さぼうる」は、実はアルコール類も飲めるのだ。『菊正宗』から『吉四六』、洋酒のほか、シェーカーを振るカクテルまであり、ボトルキープまでできるという充実ぶりだ。そして朝からでも飲める。意外と知らない客も多い。これは、かつて周辺の出版社から徹夜明けの編集者がやって来ることが多く、仕事終わりの一杯をここで楽しんでいた頃の名残りなのだそうだ。

さぼうる

さぼうる

住 所 :東京都千代田区神田神保町1-11
電 話 :03-3291-8404
営業時間:9:00~23:00
定 休 :日曜(祝日は不定休)
アクセス:地下鉄「神保町駅」よりすぐ