歴史の幕を閉じる現代版コブラ、ダッジ・ヴァイパー
- 大人のための最新自動車事情 -

歴史の幕を閉じる現代版コブラ、ダッジ・ヴァイパー

1960年代、マッシブで扇情的な軽量ボディにフォードが開発した7.0L・V8のモンスターエンジンを搭載し、その圧倒的なパワーで一世を風靡した伝説のマッスルカー「コブラ」。このコブラのコンセプトを受け継いで1991年に登場したのが、“現代版コブラ”というべきダッジ「ヴァイパー」である。以来、25年間、ヴァイパーは「パワーこそ正義」という古き良きアメリカンスポーツカーの象徴として多くのファンを獲得してきた。しかし、そのヴァイパーも、ついに2017年モデルを最後に生産終了するという。

ランボルギーニが手がけたハイパワーエンジン

1980年代後半、北米スポーツカー市場はシボレー「コルベット」のひとり勝ちといっていい状況だった。当時のアメ車には、本物のスポーツカーといえるのはコルベットしかなかったのだ。そこで、このコルベットに真っ向勝負を挑むべく、クライスラーが「ダッジ」ブランドから市場に送り出したのがヴァイパーである。

その開発コンセプトは単純明快で、大パワーエンジンをロングノーズに搭載する2シーターFRというもの。いわば「現代版コブラ」だ。当時のクライスラー社長、ボブ・ルッツの「シェルビー・コブラみたいなクルマを作れ」という号令のもと、開発スタッフにはコブラの生みの親のひとりであるキャロル・シェルビーも加わったという。ヴァイパーは“コブラの再来”として大きな反響を呼び、予想以上の注文が殺到。当初は3年間の少量限定生産の予定だったが、その後も継続して生産・販売されることとなったのだ。

現代版コブラだけに、そのパワーは常軌を逸しているほど強大だ。コルベットをはじめ、アメ車といえばV8というイメージがあるが、ヴァイパーのエンジンは、大型ピックアップトラック「ダッジ・ラム」に搭載されていた8.0L・V10という大馬力ユニット。このエンジンに当時クライスラー傘下だったランボルギーニが専用チューニングを施してヴァイパーに積んだのである。

さらに、2002年に発表された2代目の排気量は8.4Lまで拡大され、現行型は3代目から引き継いだオールアルミ製の8.4L・V10を搭載。自然吸気エンジンとしては世界最大級の最高出力649ps/6150rpm、最大トルク83kgm/4950rpmを発生する。このいい意味での「バカっぽさ」「やりすぎ感」こそ、ヴァイパー、そしてアメリカンスーパーカーの醍醐味といえる。

マッシブだがポルシェ「911」よりコンパクト

しかし、ヴァイパーは獰猛なパワーとマッチョさだけが売りのクルマではない。1900mmを超える全幅はコルベットより大きいが、全長は4463mmと、じつは4491mmのポルシェ「911」よりもわずかに短い。低く構えたロングノーズからリヤまで描かれた有機的なラインには、どこか欧州車のようなエレガントさも見て取れる。
さらに、ヴァイパーには、注文時に「1 to 1」という楽しい仕掛けも用意されている。欧州のスーパーカーにはカラーや内装を自分好みに仕上げることのできるパーソナライゼーションがあるが、ヴァイパーの場合、素材やカラー、ストライプの組み合わせだけではなく、インテリアトリムやエアロの組み合わせも選ぶことができるのだ。

このカスタマイズプログラムは、ネット上の専用ページでゲームのようにデザインすることが可能で、自分好みのヴァイパーを設定したら、スペックシートをディーラーに持ち込んでオーダー。しかも、オーナーはクルマが完成するまでの工程も見ることができるという。世界に1台しかないヴァイパーを「自分の手で作る感覚」は、クルマ好きにとってたまらない瞬間だろう。

時代遅れとなった大排気量のマッスルカー

とはいえ、現在の自動車市場は、現代版コブラの登場が待望された1990年代初頭とは状況がまったく違う。いまや高級スポーツカーにもダウンサイジングターボやハイブリッドなど環境性能が求められ、それはサイズが大きく強大なパワーのクルマが好まれる北米市場も例外ではない。世界の自動車市場において、自然吸気の大排気量エンジンは無用の長物となりつつあるのだ。

実際、ヴァイパーは2014年、前年のガソリン価格高騰の影響もあり、販売不振によって米国内の生産工場の稼働を二度にわたって停止し、生産調整を行っている。クライスラーはイギリスに本拠地を置くフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の子会社で、FCAは自動車の世界シェア8位のグローバル企業。売れないクルマの生産を中止するのは企業として当然で、それはヴァイパーという唯一無二の個性を持つモデルであっても同じなのである。

しかし、近い将来、後継モデルとなる次期型ヴァイパーが登場する可能性は十分ある。クライスラーは2016年6月、ヴァイパーの25周年を祝う5つの特別限定モデルを発表したが、この計206台のスペシャルエディションは受注開始からわずか5日間で完売。この反響を受けて、6台目の特別記念モデルの追加生産も決定した。プレミアム要素が高いファイナルエディションとはいえ、この人気ぶりを見ると、否が応でも後継モデルへの期待が高まる。FCAのセルジオ・マルキオンネCEOも、次期型ヴァイパーについて「新プラットフォームの開発が進めば」と可能性を否定しない。

次期型ヴァイパーがあるとすれば、それはこれまでと同じ大馬力ユニットを搭載したマッスルカーなのか、それともラ・フェラーリやマクラーレン「P1」のようなハイブリットスーパーカーとして復活するのか。いずれにしても、ヴァイパー復活のニュースを心待ちにしたい。

Text by Tetsuya Abe