「世界一のレストラン」を映像で疑似体験
- 40男が嗜む逸品 -

「世界一のレストラン」を映像で疑似体験

現在、ミシュランよりも注目度が高いレストラン・アワードと言われている「The World’s 50 Best Restaurants(世界ベストレストラン50)」。イギリスのレストラン誌が2002年に設立し、各国の食の専門家や評論家など、930余名の評論委員の投票により、年に一度、ベスト50がランキングされる。最新となる2015年のランキングでは、スペインの三ツ星レストラン、El Celler de Can Rocaが初めて1位に輝いたほか、日本勢では青山のフレンチ・レストラン「NARISAWA」が前年の14位から8位にランクアップしている。そして、過去14回開催されたこのアワードにおいて、2010年以降4回も1位に選ばれたレストランが、2003年にデンマークのコペンハーゲンにオープンしたミシュラン二ツ星の「ノーマ(Noma)」である。

天才シェフが世界一の座にこだわる理由

美食とは無縁の北欧で、ノーマはなぜ、4回も世界一になれたのか? なぜ世界一を目指すのか? その秘密に迫るべく、ノーマを率いるシェフ、レネ・レゼピを4年にわたって追いかけたドキュメンタリー映画が『ノーマ、世界を変える料理』である。

本作は2本の柱で構成されている。1本は、天才シェフ、レネ・レゼピのライフストーリーだ。1977年にコペンハーゲンで、レゼピはイスラム系移民の父とプロテスタントの母の間に誕生した。幼い頃に父の故郷、マケドニア共和国の農家で送った自給自足の生活が、彼の目指すレストランの根幹になっていること。また、移民の子として差別を体験したことで、ハングリー&アウトロー精神を鍛えられたこと。また、デンマークという国や国民性、食文化を一歩引いた場所から捉える視点を獲得したことなどが浮かび上がる。
もう1本の柱は、世界一になったノーマを襲った『ある事件』を、レゼピがどう乗り越えていくかを描き出すドラマである。その事件とは、ノーマで食事をした客が、ノロウィルスが原因の食中毒になってしまったこと。衛生管理が問われ、客足は落ち、「世界ベストレストラン50」では1位の座から陥落してしまう(それでも2位なのだからすごい)。そこからもう一度世界一を目指すまでの奮闘と、ロンドンでの授賞式の興奮が、本作のクライマックスだ。

制限が生み出すクリエーション&イノベーション

ノーマで提供される料理は、地元の食材のみを使用し、“時間”と“場所”を表現した、レゼピが創造したまったく新しい北欧料理だ。自らに課した制限が創造性や革新性を高めるという説を、レゼピは料理の世界で証明したのである。そのメニューは斬新だ。花束のようなサラダに、生きた蟻が歩きまわるソース。カブの器に入った花の蜜の食前酒。ハーブで燻した酢漬けの卵。バラなどの季節の花々。普段食べ慣れたものに比べて、「おいしそうか?」「食欲をそそられるか?」と問われ、首を縦には振れなくても当然のこと。これらのカラフルで美しい料理は現代アートであり、腹を満たすための料理とはもはや別物。レゼピには、シェフというよりも、アーティストという肩書がしっくりくる。
2015年の「世界ベストレストラン50」でのノーマの順位は3位。レゼピは東京やシドニーで、その国の食材を使った期間限定レストランをオープンするなど、精力的に活動している。2015年にマンダリンオリエンタル東京で、5週間限定のレストラン「Noma TOKYO」をオープンし、話題を呼んだことをご記憶の方も多いだろう。2000席の枠を求めて、世界中から予約が殺到し、ウェイティングリストには6万人以上が名前を連ねたとも言われている。
そのノーマをレゼピは2016年末までに閉店し、場所を移して自前の農場を持つ「都会の農場」として2017年に再オープンするという。その年、レゼピは39歳。現状維持に満足せず、40歳を目前にネクストレベルを目指すレゼピに、刺激を受けることは間違いない。

Text by Kazumi Kera