ついに生産を終える世界一の超高級車「ファントム」
- 大人のための最新自動車事情 -

価格”マイバッハ”のおそよ2倍!超高級車”ファントム”ついに生産終了

ロールス・ロイス黎明期の初代モデルの名を受け継ぎ、ブランドのフラッグシップを担ってきた「ファントム」が、2016年中に生産を終了してその歴史に幕を下ろすこととなった。世界最高峰の超高級サルーンとして、エスタブリッシュメントや大富豪、セレブたちから愛されてきたファントムとはどのようなクルマだったのか。

“人を快適に運ぶ”機能を世界一追求するクルマ 

英国で生まれたロールス・ロイスは1990年代後半にBMW傘下となり、新体制に移行した。現行のファントムは、その新しいロールス・ロイスのもとで2003年から製造・販売されてきたモデルである。

新車価格は、メルセデス・マイバッハS600(約2600万円)のおそよ2倍となる5000万円超。フロントグリルの意匠や各部の美しさ、その飛び抜けた豪華さと堂々たる佇まいには、見る者をかしずかせるかのような、圧倒的なオーラが横溢する。
パワーユニットも「世界最高」を謳うのにふさわしい6.75LのV12エンジンを採用。最高出力460PS、最大トルク720Nmを発揮し、電子制御8速ATがこのパワーを路面に伝える。しかし、こうしたスペックでファントムを語るのはナンセンスだ。

ファントムのすごさは、なによりも「人を快適に運ぶ」という機能を世界一追求しているところにある。巨大な排気量のエンジンを搭載しているのは、「速さ」ではなく「快適さ」のためであり、12本のピストンは電気モーターに近い滑らかさと静粛性をもたらしてくれる。

絨毯が敷き詰められた豪華絢爛なインテリア

オーナーやゲストを迎えるキャビンには絨毯が敷かれ、豪華絢爛な「部屋」そのもの。自動車業界ではクルマの内装のことを「インテリア」というが、ファントムのそれは、まさに快適なインテリアと呼ぶにふさわしい。

最高級の素材が用いられているのは言うまでもなく、オプションや限定仕様によっては、走行中にゆったりとした姿勢をとることのできる可動式のシートバックやカーフレフト、フットレストまで装備される。

リアドアには、腕時計や香水ボトル、化粧ポーチを収納できるドアパニエ、さらに有名磁器メーカーが手がけた食器類も用意されている。天井には、LEDが作り出す美しい星空が広がるという手の込みようだ。
極めつきは、観音開きの扉である。想像してみてほしい。2枚のドアがそれぞれの端を軸にして中央から左右に開かれるその姿は、まるでクルマが「お帰りなさい、ご主人様」と両腕を広げて迎えてくれるかのようだ。

室内は外界の喧騒と切り離された別世界で、フェラーリのように爆音を轟かせても不思議ではないV12エンジンの音は完全に遮断される。4輪マルチリンクとエアサスペンションが採用された足回りにより、ゆりかごにも等しい乗り心地で目的地まで運んでくれるのである。

特定の層に向けた豪華装備の特別仕様モデル

デザイン変更を伴うマイナーチェンジは13年間で一度だけだったが、ロールス・ロイスは中国の富裕層向けの「ピナクル・トラベル」、中東向けの「アル・アディヤット」など、特定の層や市場をターゲットにしたさまざまな特別仕様のファントムを発表してきた。

たとえば、2015年に発表された「セレニティ」は、日本の着物の「十二単」をインテリアのモチーフとし、天井に描かれた桜など、和のテイストがふんだんに盛り込まれたことで話題となった。
オープングレードの「ドロップヘッドクーペ」をベースに、オーナー自らステアリングを握りたくなるような限定モデルも多い。「ナイトホーク」というモデルはステルス戦闘機をイメージして北米向けに9台のみが販売され、「アビエーター・コレクション」は、ロールス・ロイス創業者と伝説的な水上飛行機に捧げられたモデル。下の写真の「ウォータースピードコレクション」は、ボートの水上世界最速記録を達成した「ブルーバードK3」をモチーフとしている。

現行モデルの生産終了に伴い、最終モデルとして準備されているのは、限定50台の「ゼニス」という特別仕様車だという。
近年、クルマの性能には自動運転やハイブリッド技術、ガソリンに変わる新エネルギーなど、複雑な要素が絡むようになった。世界最高峰のラグジュアリーカーとはいえ、そろそろファントムも時代の変化に対応する必要が出てきたのかもしれない。

しかし、時代が求める「最高の性能」に答えを示すのも世界最高のクルマの宿命である。それがわかっているからこそ、ロールス・ロイスはいったんファントムの幕を閉じるのだと思いたい。

Text by Tetsuya Abe

Photo by (C) Rolls-Royce Motor Cars