男の隠れ家 5月号
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熱海ひとり歩記(あるき) 。

〝おひとり様〞こそ贅沢の極み

1500年の歴史を持つ温泉、古木が茂る杜、たゆたう大海原、海沿いのリゾートホテル、芸妓文化、昭和の香り漂う路地裏……。

静岡県・熱海には、自然の恵みと粋な文化がぎっしり詰まっている。そんな玉手箱のような地だからこそ、ひとりでじっくり旅したい。

文◎浅川俊文
撮影◎関野温

自由気ままに熱海の街を散策
ひとり旅の僥倖を噛みしめる

湯気が立ち上る足湯に浸かる旅人たち。蒸したての温泉まんじゅうを求めて店頭に列をなす人々……「熱海駅」の改札を出ると、泉都ならではの賑わいに包まれた。今日は気ままに町を散策してから温泉旅館にひとりこもり、忙しかった年度末の疲れを癒して心身を整えるつもりだ。
駅の右前方には仲見世名店街があり、名物・温泉まんじゅうを蒸す蒸気が立ち上る。

 

まずは駅から坂を下ると視界が開け、白砂のビーチと海が目の前に広がった。通り沿いにはヤシの木が茂り、リゾート地へ来た実感が湧く。

しばらく寛いだ後、昼食をとりに銀座町へ。熱海といえば干物の産地。創業150余年の老舗「釜鶴」の直営店「海幸楽膳(か いこうらくぜん) 釜つる」で干物定食をいただく。弱めの塩水に長時間浸ける製法で作られた干物はふっくらと柔らかく、旨味が凝縮されている。
直営食事処「海幸楽膳 釜つる」で絶品の「干物定食」(2160円)を味わう。

 

老舗秘伝の味を堪能後、昭和の古い街並みが残る中央町に足を踏み入れた。枯れた木造建築が並ぶ界隈を彷さまよ 徨うと「modern jazz」の看板を掲げた小さな店が。ドアを開けると、使い込まれたJBLのスピーカーから「朝日のようにさわやかに」が流れている。カウンターに座り、コーヒーを頼んで店主と雑談する。

「ジャズ喫茶ゆしま」は昭和41年開店で、店主の土屋行子さんは御年95歳。店中にジャズが染み込んでいる。「親子二代の常連さんも。楽しい会話といい音楽が長寿の秘訣ね」と微笑む土屋さん。貴重な店と巡り合えた、ひとり旅の僥ぎょうこう倖を噛みしめるのだった。
中央町の路地裏に佇む「ジャズ喫茶ゆしま」。店主の土屋行子さんがネルドリップで丹念に淹れるコーヒー(400円)を飲みながらジャズを愉しむ。50年の歳月が刻まれた店内には3500枚のLP、CDが。