第九回ビジネス偉人バナー640-396
- ビジネス偉人に学ぶ -

「失敗の本質」日本の負けパターンの本質を描いた野中郁次郎

野中郁次郎などが著し1984年に出版された「失敗の本質」。旧日本軍が勝ち目のない太平洋戦争の参戦をなぜ決断したのか、なぜ負け戦を繰り返したのかを組織論から分析した名著である。現代日本はこの問題を乗り越えたのかを、ビジネスマン向けに探る。

ナレッジマネジメントの始祖であり組織学の大家である賢人、野中郁次郎

野中郁次郎(以下、野中)の事を知っている読者の方も多いだろう。日本が誇る世界的経営学者であり、ナレッジマネジメントという概念を発明し、暗黙知・形式知といった観点から知識経営について考え抜いたビジネス界の賢人である。野中が知についてもっている問題意識について掘り下げても良いのだが、本連載は古典を手軽に学ぶという使命を負っているので、野中が組織学者としてリードして1984年に出版した「失敗の本質」について簡単に紹介しようとおもう。

日本の組織は緊急事態に結果を出せない

失敗の本質は太平洋戦争における日本軍の敗戦の原因を(組織論の観点から)分析したものである。いくつかの敗因のパターンがあり、例えばミッドウェー作戦では米軍に対して圧倒的な軍事的優勢を誇っていたのだが、何故か壊滅させずに帰還してしまったので、後に不利な状況を生んでしまうといった事例が示されている。
野中はノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦を題材にしたが、共通して言えるのは、日本は平時のメンバーシップ型組織に過剰最適化されているため、緊急時に組織目的を貫徹させることが出来ない事である。
これはどういう意味かというと、組織の最終目的と関係性が薄い派閥・仲良しグループの価値観を、緊急時まで持ち込んでしまい、正しい判断を下せなくしてしまうという事だ。
時事ネタに絡めて言うと、会社倒産の危機にある某大阪のテレビメーカーが、危機的状況に合っても社員の雇用補償を求めるなど、メンバー内部の秩序の維持を求めてしまう状況と同じである。結果として会社も実質倒産し、メンバー内部の秩序も破壊されることになる。
みなさまにおいても、派閥毎の利害があるので絶対に結果が出せるはずのない社内会議などに飽き飽きした経験などあるだろう。

2020東京オリンピック・パラリンピックも未だ野中郁次郎の提起した問題を乗り越えていない

時事ネタとして「失敗の本質」の説明が出来てしまうように、この問題は現代日本においても未だに解決されていない現在進行中の問題である。
第二の敗戦になるかも知れないという観点で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの国立競技場の問題を見てみよう。
デザインコンペだったのか設計コンペだったのか不明瞭なまま出てきた作品を現実化しようとして問題になったり、オリンピックの聖火台やサッカー場としての機能が不完全だったりと、様々な問題が起こっている。この問題の根本にあるのは何のために国立競技場を建て替えるのか、誰が主体なのか、まったくハッキリさせていないことである。つまりオリンピック組織委員会やサッカー業界、東京都や文科省といった出向元の派閥、等々の個別のメンバーシップ型組織(仲良しグループ)がその時々に利害を主張するだけで、オリンピックという期限のある緊急事態に向けて共通の大目的を設定して組織を作ろうとしていないのだ。

このように現代においても未だ日本は野中の「失敗の本質」の問題意識の射程から抜け出ていない。本コラムの読者のような組織のリーダー層にとって、「失敗の本質」は事ある毎に振り返るべき古典としてお勧めする。