歴史を紡ぐベントレー「フライングスパーV8」新モデル
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歴史を紡ぐベントレー「フライングスパーV8」新モデル

2016年3月のジュネーブモーターショーで世界初公開されたこのクルマを、すでに目にした人もいるかもしれない。英国高級車メーカー、ベントレーがラインナップする4ドアセダン「フライングスパーV8」に、ドライビングエクスペリエンスをさらに高めた「S」が追加された。それは単なる高性能モデルではなく、古くから続くベントレーのアイデンティティを継承したスポーティかつラグジュアリーな1台だ。

世界で最も速い4ドア車というSタイプの歴史

現行の「フライングスパー」は、3代目にあたる。初代は、ベントレーが1955年から1965年に生産した「Sタイプ コンチネンタル」の派生モデルとして登場した歴史あるシリーズだ。「Sタイプ」はロールス・ロイス「シルヴァーレイス」の兄弟車であり、そのチューンアップバージョンでもあるため、初代「フライングスパー」も欧州で最も速い4ドア車として認知されることとなった。
ベントレーは1998年にロールス・ロイスからフォルクスワーゲン傘下となったが、2005年にSタイプも復活。W型12気筒エンジンを搭載したこの2代目も、初代以来の「高速4ドア車」というコンセプトを守った。そして今回の「フライングスパー V8 S」は、現行モデルでラインナップされるW12モデルとV8モデルの中間を担うグレードとして加わったもの、なのだが…。

ハイパワー化ではなく独立の“チューニング”

パワーユニットは、最高出力507psの4L・V8ツインターボエンジンをチューニングし、528psに向上。1700rpmで最大トルク680Nmを発生、0-100km/hを4.9秒で走り抜ける。2.5トンを超える重量級のボディを考えると、そのパフォーマンスは相当なものだ。また、このV8エンジンは、必要に応じて巡航時に半分の4気筒を休止する可変シリンダーシステムを採用している。パフォーマンスを高めながらも燃費性能にすぐれ、837kmという長い航続距離を持つことも特長だ。

トランスミッションには8速ATを組み合わせているが、エンジンとミッションのマッチングが見直され、結果、スロットルレスポンスもシャープなものとなった。Sモードにすれば、さらにV8エンジンのダイレクトなフィーリングが楽しめる。駆動方式は前後40:60のAWDのため、路面や天候に関係なく安定した走りも実現した。

また、エンジンのパワーアップに伴ってサスペンションにも専用チューニングを施される。連続可変式ダンピングコントロールのセッティングを見直し、乗り心地への影響を最小限に抑えながら、回頭性とレスポンスを向上。高いハンドリング性能とボディコントロール性能を実現した。

エレクトリック・スタビリティ・コントロールにも手が加えられた。ホイールのスリップの許容範囲が広がったことで、このクルマを思う存分に振り回してスポーティさを堪能することができるだろう。さらに積極的な走りを楽しみたいなら、ストッピングパワーを最大限に高めるカーボンセラミックブレーキのオプションも選択可能だ。

ベントレーに流れる“モータースポーツの血”

もちろん、内外装のデザインも変更されている。新しくなったフロントグリルインサートや「V8 S」のバッジ、20インチのオープンスポークホイールは、このクルマのスポーツ性能を示唆しており、手作業で組み立てられる内装もラグジュアリーさに満ち溢れている。

最新の防音技術や空調、リヤエンターテイメントシステムなども装備され、ショーファードリブンとしても文句のない仕様に仕上げられているのも、高級車としてのベントレーらしいポイントだ。
ベントレーは高級車には違いないが、スポーツドライブを愉しめるクルマ作りをしている点が面白い。「フライングスパー V8 S」も、突き詰めれば、クルマ好きが運転せずにはいられないドライバーズカーであり、パッケージの内容を見るかぎり、「V8」と「W12」の中間車種ではなく、メーカー純正の「チューンドカー」といっても過言ではない。その佇まいは、優雅でありながら野性味に溢れており、ベントレーに流れるモータースポーツの血を否応なしに感じさせてくれる。

Text by Tetsuya Abe