「文章で損している人たち」がたくさんいる~文章は時に、信頼を奪い去る凶器にもなる~
- 恥をかかない大人の文章術 -

「文章で損している人たち」がたくさんいる~文章は時に、信頼を奪い去る凶器にもなる~

インターネットがビジネスシーンで当たり前に使われるようになり、かつてないほどにビジネスパーソンに問われるようになっているのが、実は文章を書く力だ。メール、レポート、企画書…。社内で、あるいは取引先とのやりとりで、みっともない思いをしないためにも、文章とどう付き合うか。恥をかかない大人の文章術を紹介する。

■今回のアドバイザー
ブックライター
上阪徹

1966年、兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、リクルート・グループなどを経て95年よりブックライターに。著書に『文章は「書く前」に8割決まる』(サンマーク出版)、『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)ほか多数。

相手を怒らせようなんて、思っていなかったのに…

上阪「実際、好印象を持ったメールの送り主には、悪い気持ちは抱かないでしょう。それより、なんだか感じが良さそうな人だな、いい人みたいだな、仕事ができそうだな、というプラス評価を持つものでしょう。同じメールが上司や同僚に送られていたとしても、そう感じると思います。メールの文章が、人格や能力の判断材料にされてしまっているのです。

逆に、誰かをムッとさせたり、カチンとさせたりするメールもあります。でも、考えてみてください。相手をムッとさせたり、カチンとさせたりしようと思ってメールを送っている人は、まずいないと思うのです。なのに、そういう結果を生み出してしまっている。

私が伝えておきたいのは、文章というのは、時にそういうことをしでかすものである、ということです。そんなつもりがなかったとしても、ほんのわずかな一文で相手を傷つけたり、嫌な思いをさせてしまう。そんな危険性を持っている、ということなのです」

文字は、相手に送ってしまったら、もう取り消せない

上阪「もし直接会って、対面のコミュニケーションを行ったのであれば、伝えたい情報は身振りや表情、目線や手の動き、声の大きさや抑揚などを組み合わせて、身体全体で印象を作り出すことができます。電話でも、音声を使って印象を生み出せる。だから、面と向かって言われたり、電話であれば気にならない言葉も、メールだったりすると腹が立った、ということもあります。

しかし、文章は文字として残ってしまいます。メールであれば、一度、書いたものを送ってしまうと、それを消すことはもうできないのです。それがわかっているから、電話や対面のコミュニケーションを好むという人も少なからずいます。文章の怖さを知っている人、といえるかもしれません。大事なことは、文章はくれぐれも慎重に扱わないといけない、ということです。相手に正しい情報を伝え、的確に言葉を選んで好印象を与えられる文章もありますが、逆に相手から信頼を奪い去る凶器にもなるのです」

常に文章を読む相手の立場に立って、文章を作るべき

上阪「考えてみれば、文章はごく当たり前のように子どもの頃から使ってきたコミュニケーションのツールです。得意不得意はあるとはいえ、基本的に誰にでも書けてしまうのが、文章。だからこそ、実は気をつけなければいけません。なにげなく、なんとなく文章を書いてしまう。言葉を選び、使ってしまう。それが、時に刃になってしまうかもしれないのに、です。

そしてこういう危険性を、これまで誰も教えてくれなかったのです。私自身は、仕事を通じてこのことを学び、痛感するに至ったのでした。そんなつもりはなかった言葉が、時に人を大きく傷つけることがある。大きな問題を引き起こす可能性を持っている。どこで言葉を使うにしても、たとえ匿名であったとしても、この緊張感を持っておくべきだと思っています。常に文章を読む相手の立場に立って「この言葉を投げかけたらどうなるか」と考える。文章とは、このくらいの厳しい心構えで付き合うべきだと私は思うのです」

文章技術は、根本の問題を解決してくれない

上阪「文章術がテーマなのだから、早く文章の技術を教えてほしい。そんな声が聞こえてきそうです。実際、書店で人気の文章関連の本は、たくさんの例題が並べられた文章技術の本のようです。こんな場合には、こんなふうに展開する。こんなときには、こう修正する。こんな言葉や助詞の使い方をしてはいけない。接続詞は、こういう場合にはこう使おう。さまざまな場面に対応するための、事細かな技術や例題が掲載されていたりします。

しかし、『技術』や『例題』をいくら覚えたところで、それはあくまで技術や例題に過ぎません。その場限りの技術や例題なのです。自分自身を振り返ってみてもそうなのですが、いくらそうした文章術を覚えたところで、応用が利かなければ、使える文章力にはなりません。大事なことは、いろいろな場面で使える、応用が効く文章力を身につけることです。本カレッジでは、恥をかかない、そんな応用が効く大人の文章術を展開していきます」

文章は嫌いで苦手だった人間が作った文章術

上阪「実は今でこそ文章を書く仕事を生業にしている私ですが、子どもの頃から大の文章嫌いだったのでした(最も嫌いだったのは読書感想文です)。そんな私が今やこんな仕事をしているのですから、人生は本当に不思議です。

きっかけは、文章ではなく、広告への興味でした。言葉をつむぐ仕事が、やがて長文を書く仕事へと広がっていきました。私の文章術とは、文章が苦手だった人の文章術なのです。そしてその文章術のベースになっているのが、『文章を書く上での心得』なのでした。これさえ持っていれば、文章は書けるようになる。私はそう思っています。実際、私がそうだったのです。

とりわけ『恥をかかない大人の文章術』という点では、問題は実は文章技術以前にあることが少なくありません。技術だけをマニュアル的に学んでも、根本的な問題はまったくクリアできません。だからこそ、応用が利く『心得』が意味を持ちます。次回は、心得が変わるだけで印象が変わる、という事実を考察しましょう」

<今日の講座のポイント>

1.文章で人は判断されている
2.文章は怖いものであると認識する
3.文章技術だけでは根本問題はクリアできない