相手に伝わらない「空回り文章」を書かないために~文章が変われない5つの落とし穴~
- 恥をかかない大人の文章術 -

相手に伝わらない「空回り文章」を書かないために~文章が変われない5つの落とし穴~

インターネットがビジネスシーンで当たり前に使われるようになり、かつてないほどにビジネスパーソンに問われるようになっているのが、実は文章を書く力だ。メール、レポート、企画書…。社内で、あるいは取引先とのやりとりで、みっともない思いをしないためにも、文章とどう付き合うか。恥をかかない大人の文章術を紹介する。

■今回のアドバイザー
ブックライター
上阪徹

1966年、兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、リクルート・グループなどを経て95年よりブックライターに。著書に『文章は「書く前」に8割決まる』(サンマーク出版)、『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)ほか多数。

経済新聞に出ているような「難解」な文章。お好きですか?

上阪「文章を読むのは大変なこと。一方で、文章で物事を伝えるのは難しい。そんな『心得』をしっかりと持っていれば、文章は変わっていく、と前回、書きました。しかし、『心得』を持ったのに文章が変われない『落とし穴』が実はあります。そこで今回は、その落とし穴について解説します。相手に伝わらない『空回り文章』を防ぐための5つのキーワードです。

まず一つ目が、『形容詞』。形容詞というのは、極めて便利な言葉だったりします。何かを説明するのに、形容詞を使えば、それこそ形容できてしまう。しかし、実はこの形容詞が、伝わらない空回り文章を作ってしまうことが多々あるのです。例えば、『いい会社』。私はかつて求人広告の制作者をしていましたが、キャリアの浅い制作者が真っ先に使ってしまうのが、この言葉です。たしかに『いい』と形容はしている。しかし、『当社はいい会社です』という広告コピーを作っても、ちっとも響きません。なぜなら、まったく説得力がないから。そして、A社にもB社にもC社にも言えてしまう言葉だからです」

小学生の作文のような文章にならないために

上阪「形容詞は便利で簡単に使えます。その様子や状況を表現できる。しかし、表現できることと、説得力を持って相手に伝えられることとは別物です。時として形容詞は、この落とし穴に落ちる危険性を秘めています。ですから基本的に形容詞は使わない、くらいに考えていたほうがいい。美しい、楽しい、うれしい、といった言葉も同じです。形容詞を乱発した文章は、まるで小学生の作文のようになってしまうのです。

では、どうするのか。大事なことは、何が『いい』のかという『事実』にこそあります。『いい会社』なら、『残業が一切ない』のか『社員全員が仲良し』なのか『世界シェアナンバーワンの商品を持っている』のか。具体的な事実を挙げる。『いい』と形容するのではなく、結果的に相手に『いい』と思ってもらう。形容詞は、伝えた結果、相手に思ってもらいたい印象であるべきなのです。だから、そのための事実を掲げる。実は形容詞を使わないと意識すれば、『事実』に目が向かうようになります。その『事実』を意識することが、相手に伝わる文章につながります」

お手本にすべきは、自分が理解しやすい文章

上阪「二つ目の落とし穴が、『難しい』文章です。報告書にしても企画書にしてもレポートにしても、難しい漢字や難しい言葉がたくさん詰まった論文のような堅い文章は、実は誰にとっても読みにくいもの。しかし、論文とまで行かなくても、難解な文章はビジネスの世界にも多々存在します。その背景にあるのが、ビジネスパーソン必携のツール、経済新聞ではないかと私は感じています。経済新聞に出ているような文体の文章こそ、ビジネスパーソンは書かなければいけないと思い込んでいる人が多いのです。しかし、経済新聞に出ているような文体の文章を、果たしてみなさんは、お好きなのでしょうか。

『R25』の創刊時、20代へのアンケートで興味深いデータが出たことを記憶しています。ほとんどのビジネスパーソンが、経済新聞は難しいと感じていたのです。つまり、その文体をお手本にして文章を書いてしまったら、難しい文章になってしまいかねないということ。お手本にすべきは、自分が読みやすいと思う、理解しやすい文体であるべき。実は経済新聞では決してない、ということです」

文章を台無しにしてしまう『手垢のついた表現』

上阪「伝わらない文章の落とし穴の3つ目は『手垢のついた表現』です。たくさんの文章に接している方は、メディアや小説などで用いられている慣用句をたくさんご存じだったりします。例えば『未知数である』『懸念をはらむ』『警鐘を鳴らす』『目尻を下げる』…。たしかによく見聞きする慣用句ですが、こうした言葉は、すでにフレーズだけが一人歩きしてしまっていることが少なくありません。だからこそ、手垢のついた言葉なのです。こうした言葉は、それ自体のイメージがすでに固定化してしまっていて、むしろ実際のイメージを伝えにくいものにしてしまう。せっかくの文章が、台無しになってしまう。

例えば私はブログなどで一般の方が書いているものを読んでいて、『もったいないなぁ』と思うことがあります。新鮮な切り口で文章が展開されているのに、こうした慣用句がところどころに出てくることで、新鮮さがすっかり骨抜きにされてしまうことが多いからです。実は新聞の記事が難しく思えるのは、こうした慣用句がやたらと多用されているからだと私は思っています」

『借り物の言葉』では、読み手には響かない

上阪「形容詞や難しい言葉、手垢のついた言葉。私はこうした言葉を総称して、『借り物の言葉』と呼んでいます。借り物の言葉の特徴は、わかったようで、実はよくわからない。そういう表現になってしまうこと。原因は、実は書き手がわかっていないことです。いや、わかっているのですが、曖昧な理解なのです。それでは相手にきちんと伝わるはずがありません。

これは私自身に経験談があります。広告制作者として駆け出しの頃、どういう文章がいい文章なのか、まだ気づいていなかった私は、求人広告を作る際に企業の情報について、パンフレットやもらった資料などから言葉をたくさん拝借した原稿をよく書いていたのでした。専門用語や難しい言葉を拝借してみると、これがどうにも賢そうな、いかにもそれらしい原稿に見えるようになったからです。しかし、借りてきた言葉はしょせん、借りてきた言葉です。自分が理解していないことは、相手にも理解させられない。当然、読み手には響かないことに、私は次第に気づいていきました。実のところ、書き手がちゃんと理解して書いている文章は、そうでない文章と印象がまるで違います。“借り物”感がないのです」

読み手は賢く、鋭く、怖い存在である

上阪「では、借り物感のない文章にするためには、どうすればいいか。自分が理解していない言葉やフレーズは使わない、ということです。実はそれほど難しいことではありません。自分が理解した範囲の中で、理解している言葉で文章を書いていけばいいのです。もっといえば、平易な文章にすることです。

ところが、これを妨げるのが、4つ目の落とし穴『うまく見せよう』『賢く見せよう』なのです。自分が理解している言葉で文章をつむげばいいのに、無理に背伸びをして借り物の言葉が次々に現れる。難しい言葉や、気の利いたフレーズ…。しかし、結果的にはそれは狙いと逆になります。多くの場合は、うまく賢く見えるどころか、むしろかっこ悪い事態を引き起こします。なぜなら読み手には、そうした意図は伝わってしまうから。意図のある文章は、魂胆が読み手にバレてしまうのです。読み手を感動させようとしたり、笑わせようとしたり、意図している文章もそう。それは結果的に読み手がそう読むのであって、書き手がそこを意図すると、読み手は敏感に感じ取ってしまいます。読み手を絶対に甘く見てはいけません。極めて賢く、鋭く、怖い存在が読み手なのです」

文章が書けたかのように思える『批判的な文章』

上阪「最後、5つ目の落とし穴が『批判的な文章』です。文章の世界で大先輩にあたる著名なジャーナリストの方に取材をしていて、印象深い話を伺ったことがあります。何かや誰かを批判する文章は比較的書きやすいものだ、というのです。だから、みんな批判的な文章を書きたがる。批判的な言葉を使ったり、批判的な文章を書いていると、文章が書けたかのような、うまくなったかのような気になってくる。それは、文章書きとしての大きな落とし穴だ、と。

そしてこうも言っていました。褒めることこそ、実は難しい、と。実際、ネットでも批判的な文章が溢れています。もちろんそのすべてを否定するものではありませんが、ネガティブな文章を意識して書かないようにすることは、文章力向上の重要な一歩になりうると私は考えています。そもそもビジネスの世界では、批判的な文章を書く機会はほとんどありません。日頃から、そうした文章には注意を払っておいたほうがいい。知らず知らずのうちに、その感覚が染みこんでいくからです。『形容詞』『難しい言葉』『手垢のついた表現』『うまく、賢く見せよう』『批判的な文章』。5つの落とし穴をご紹介しました。ぜひ頭に置いておいてほしいと思います」

<今日の講座のポイント>

1.伝わらない空回り文章を防ぐ5キーワードに留意
2.お手本にすべきは、自分が理解しやすい文章
3.読み手を絶対に甘く見てはいけない