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- 西川淳のスーパーカー聖地巡礼 -

ランボルギーニのチーフデザイナーはかく語りき

最新ランボルギーニの試乗にはじまり、実際に生産される現場までつぶさに観察した女優・里璃と、自動車ライターの西川淳。次に向かったのは、本社の各部門のなかでも最も入室が難しい場所のひとつ、チェントロ・スティーレ=デザインセンターだった。

チーフデザイナーがお出迎え

 本社の奥まった場所、まるで秘密基地(本当にそうだが!)のように建っているビルのなかにランボルギーニのチェントロ・スティーレ=デザインセンターはあります。ボク(西川)はこれまでに何度か訪れていますが、それでも入るたびに緊張してしまう。それって、何なのでしょうね。ここから全てのランボルギーニデザインが生まれていると思うと、自然と身体がそう反応してしまうのでしょうか。

 「うわ、涼しいですね!」。里璃さんが思わずそう声を上げたほど、この建物のなかはひんやり。雰囲気はとてもモダンです。
 階段を登って、いよいよ、ヒミツの扉が開かれようとしています。扉を開けてくれたのは、この場所のボス、チーフデザイナーのフィリッポ・ペッリーニその人でした。

 「チャオ!」。いつものように、明るく快活に出迎えてくれました。才能に充ちたデザイナーなのに、本当に社交的なナイスガイ。人間的にも最も好きなデザイナーのひとりです。

 さぁ、里璃さん、中に入りましょうか。おーっと、ここは基本、撮影が禁止されています。なので皆さんには、様子を説明しておきましょう。

 ガラス張りの向こうに大きなプレゼンテーションルームを見下ろす快適な部屋のなか。ラフでカジュアルな服装をした30名ほどの若者たちが、各々モニターを睨んで仕事に勤しんでいます。どこかゲームでも開発中のIT企業のような雰囲気です。あまりキレイに整頓されている、という感じではありません。みんな、思い思いの飾り、ミニカーであったりオブジェであったり写真や絵画であったり、を机のまわりに飾っています。きっと、各人に想像力をかきたてるための最適な空間造りの方法があるということでしょう。

最強のカーデザイナーとは?

 では、さっそくボスのフィリッポ・ペッリーニに話を聞いてみましょう。彼はフィアットアウト出身で、過去にはアルファロメオ8Cなどを手がけています。ウォルター・ダ・シルバとともにVWアウディグループに移籍(先日、ダ・シルバのVW退職が報じられました)。ランボルギーニへやってきました。

 フィリッポ自身はエンジニア出身であり、カーデザイナーとしては遅咲きです。だからこそ、彼には信念があるのだと思います。彼はそれをこう表現しました。

「現代において最高に評価されるデザイナーはみな、エンジニアリングを熟知しています。ただ想像力のある絵が上手く描けるだけじゃダメなんです」。この信念こそがランボルギーニの若きデザインチームのポテンシャルを世界最高レベルに引き上げました。

 今や彼らは、世界で最もデザインに力を入れているアウディグループにおいて、アドバンスド(先進)デザインチーム的な存在でもあります。
「このデザインチームにとって、若い人材たちこそが宝物です。だから私は彼らの仕事や担当を頻繁に替えて、様々な経験を積ませています」、と、フィリッポは強調しました。
 通常のデザインセンターでは、外装や内装など、主要なパートごとにチームが分かれているのが普通です。大きな組織になればなるほど、そうならざるをえないのかも知れません。けれども、ランボルギーニの所帯はとても小さい。だからこそ若いデザイナーたちは、およそメーカーが関わる全ての領域を順繰りに任せてもらえる。

「デザインから生産まで全てが、ここサンタガータの本社にまとまっているというコンパクトさもわれわれの強みと言っていいでしょう。だから、それを活用しない手はありません」。フィリッポの方針で、エンジニアリングなど他部署との交流も盛ん。それゆえ、彼らはただ単に奇抜なスケッチを描くのではなく、常に実現性の伴った、“走ることが可能”なクルマをデザインするクセがつくのでした。

「ここで三年も学べば、クルマ造りのプロフェッショナルになれると思いますよ」。フィリッポは自信たっぷりにそう言いました。言わば、アウディグループにおけるデザインアカデミー。それが、ランボルギーニのチェントロ・スティーレというわけでした。

 取材時、彼らは、次世代ランボルギーニ販売戦略の柱となるクロスオーバーSUV“ウルス”の市販モデルデザインをほぼ終えて、とあるヒミツのプロジェクトの総仕上げにかかっていました。よく見れば、若いスタッフたちはみんな笑顔でモニター画面に向かっています。最後にフィリッポもまた底抜けに明るい顔でこう言いました。

「カーデザインは、特にランボルギーニのデザインは、やらされ仕事じゃありません。ファンなんですよ。ランボルギーニの歴史を学びつつ、新しいカタチを造り出す、楽しいゲームだと思ってください。だったら精一杯、楽しまなきゃ。そこから、いいデザインが生まれてくると思っています」。
「フィリッポって、この部屋を監督するボスというよりは、一緒にプレイを楽しむキャプテンのようですよね。ホント、楽しそう!」。里璃さんの感想こそ、このデザインチームの本質を突いていると言っていいでしょう。

クリーンで高効率な工場を目指して

 高価で高性能なランボルギーニのようなスーパーカーといえば、CO2排出量が多くて当然です。とはいえ、そんな現実に甘んじることなく、CO2削減に向け様々な施策を実行に移しています。クルマ本体だけではなく、生産のプロセスにも着目しているという点で、ランボルギーニの取組みはユニークです。

 ランボルギーニは年間生産台数が2500台程度と、とても小さなメーカーです。ユーザーの手に渡ってからも走行距離はさほど延びません。それゆえ車体そのものをやみくもに効率化するよりも、まずは製造工程において、CO2を大幅に削減(15年中に25%ダウン)してカーボンニュートラルを達成し、企業イメージを向上させる戦略に打って出ました。

 2010年には、工場内に1.5万平米にも及ぶ太陽光発電統合プラントを建設。年間およそ千トンものCO2削減に成功しました。11年には工場近くに「パルコ・ランボルギーニ」を開設。七万平米の敷地に一万本以上の樫の木を植樹し、産官学連携で気候変動における生物多様性のサスティナビリティを研究するプロジェクトも始めています。

 そして今年、CO2削減プロジェクトの総仕上げとして、天然ガス(17年からはバイオガス)から熱と電気、さらには排出されるCO2を冷却などに有効活用する“トリジェネレーションシステム”を稼働しました。加えて、イタリアの自動車メーカーとしては初めて、熱供給システムを採用。併せて二千六百トン以上のCO2削減&置換に成功すると同時に、15年中のカーボンニュートラル認証も確実となったのです。
 ちょっと小難しい話になってしまいましたが、要するに今、ランボルギーニは生産過程においてカーボンニュートラルに代表される環境対策を入念に行なっており、それをアヴェンタドール、ウラカンに続く第三のモデル登場後もキープしていくことを世界に宣言した、ということです。

 クルマを見る限り、そういう風にはまるで見えないけれども、実は環境対策の進んだブランド。それがランボルギーニの最新事情というわけでした。